性格不一致


 基本的にキラは、とアスランは考える。
 人懐っこい性格なのでどこに行ってもすぐに人の輪の中にはいっていける。
 誰とでも平気で話すし、だから友達もすぐにできて多い。
 対してアスランはどうかといえば、キラと離れていた二年間を考えれば明白だろう。

 最終的に仲間と呼べる人たちができ、彼らはきっと友人と言っても怒らないだろう。いや、照れ隠しに怒鳴りそうな奴もいるが。
 しかし彼らはあえて仲間と呼びたい。 
 となるとキラ以外の友人などいるのかいないのか。
 今はなき、二人の顔が浮かぶ。
 ニコルに……ラスティ。
 しかしながらその二人に関しても、積極的に関係をもったかと問われれば首をふるしかない。
 常に受身でしかいられなかった。
 人見知りをするからとか、不器用な性格をしてるとか、そんなことを考えているような状況ではなかったとか。
 それらはきっと言い訳で、どこかでキラと比べて、もしかしたらキラ以外はいらないだとか、心のどこかではそんなことを考えていたのかもしれない。
 

 こんな時にあれだが、いざ思い返してみると鬱になりそうだ。


 そんな狭い世界に生きていたアスランと、広い世界に行きるキラと。
 何でキラがアスランに構うのだろうと思うことがある。
 今だって、クラスメイトと楽しそうに話ているが、そのうち必ずアスランにかけよってくるのだ。
 それもまた受身的で傲慢な思い込みとわかっていて時に不安になるが、少なくとも今までキラは帰っきていた――若干の、しかし無視するには大きすぎる例外があったとしても、出会い別れるまで、そしてこの地に来てからこれまでは。




 ぼんやりとそんなことを考えながらキラを眺めていたら、くるりと振り向いたキラと丁度目が合った。
 考えていたことが考えていたことで、しかもずっと見ていたことがばれてしまう気がして、気恥ずかしくなってそむけた視界の先に、ライアンの姿をみつけた。

 一応クラスメイトの顔と名前は一通り覚えているが、彼は特に印象深い人物といっていい。
 というのも、彼がアスランからしてみれば少々珍しい種の人間だったからだ。

 要因は二つある。
 
 一つは彼が転校してきた当初、キラよりも先にアスランに話しかけてきた人物であること。
 且つ、どうやらキラよりもアスランに興味があるそぶりをみせ、何かと接触をはかってくる人物であること。
 さすがに自分が周りにどう見られるタイプの人間かということぐらいはわかっている。
 初対面から近づきやすいタイプではないということぐらい。
 隣に親しみをもちやすいキラがいれば尚更のことだ。
 キラなんか警戒しろとアスランに言ってきて、わかっていたが失礼な奴だ。



 アスランに気付いたらい案は今もまた、よおと手を上げ、アスランのほうへ歩いてきた。


「暇そうだな」

「そうでもないんだけどな」

「そうか? ま、いいや。なあアレックス、今日の放課後あいてないか? カラオケでも行こうって話なってんだけど」


 こうやって気にかけてもらうのは正直ありがたいことだと思う。
 だが、同時に少し心苦しい。
 何度も誘われているのに、アスランは結局一度も承諾したことがないことを思えば。


 残念ながら今日は帰って当番なので夕飯を作って、それから休んだ分とだされてしまった課題をやって、何が一番大変かって、それをキラにもやらせなければならない。
 毎度毎度こんな理由で断るのは本当に申し訳なくて、心がひける。
 だが、キラを一人残して、他の友達と遊びに行くなんてことはしたくなかった。
 アスランとしてもやはりキラとの時間以上に大切なものなどかったし、キラ一人で課題をもくもくとやる姿など想像がつかなかったし、なによりキラは、それはもう盛大に拗ねてくださるだろう。
 拗ねたキラの相手をするのは、なんというかその、体力が要るのだ。
 ならばキラもくればいいのにと思わないでもないが、まあ無理な話だろう。



「アレックス、何の話?」


 違う人と話していたはずのキラが気付けば真横にいた。
 ふんわりと笑って、というように周りからは見えるだろうが、アスランには、……たぶんライアンにも、わかる。
 目が笑っていない――そしてそれもわざとだ。


 これがライアンが印象に残っている理由その二。
 ここまでキラに嫌われる人間というのも珍しい。


 話は聞こえていたのだろう。
 だが、わざわざ来なくても了承したりしないというのに。
 そんなに信用がないのだろうか。


 ライアンのあからさまに嫌そうな顔が目に痛い。

「暇そうにしてたから遊びに行かないかって話だ。なんでお前が首をつっこんでくんだよ? 関係ないだろ」

「行くの? アレックス」


 キラはキラでよくもまあこうも器用にいろんな表情をつくれるものだ。
 不安そうなそれにアスランは弱い。
 昔から。


 嫌われる……というか嫌いあってるというか。
 アスランは溜め息をつかずにはいられなかった。


「ごめん、悪いけど行けそうにない。やらなきゃいけないことがあるんだ」

「そ。僕と愛を確かめあうとかね」


 牽制、というか、どちらかというと嫌がらせに近い気がするのだが。



「ばか。課題があるからだ」

「そうか、それは仕方ないな。じゃあまた誘うよ」

「いつ来てもノーだよ」

「アキラ!」




 アスランがキラを戒めるが、その一方でライアンはまるでキラの言葉など聞かなかったように、じゃあまたなと手をあげて爽やかにさっていった。
 どうなるかと様子を伺っていた他のメンバーからお呼びがかかったのだ。


 アスランのかわりにひらひらと手をふるキラを見上げた。
 こちらも頭痛がするくらい爽やかな笑顔だ。





「何がそんなに嫌いなんだ?」


 聞いたアスランに、


「ん〜あれだよ、性格の不一致ってやつ」



 とキラはわかるようなわからないような、どこの夫婦の離婚理由だと言いたくなるようなことを言いきった。




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