苦痛と快楽


 苦痛と快楽はよく似ている。
 隣り合ってるそれは、そもそも境界線さえはっきりしない。

 間を彷徨い、さて今自分は一体どこにいるのだろうかとそう考えたとき、いきなり足元が危うくなって、宇宙に放り出されたような不安感にさいなまれた。




「なに、考えてるの」
「ぁ、……ぁあっ」

 一際強く突き上げられて、朦朧としていた意識を無理矢理引き戻される。
 途端はしった激痛に身をよじらせようとするけれど、押さえつけられた身体は動かなかった。


「キ……ぃ…た、い」

 帰ってくるなりベッドに放り出されて、そのままかぶさってきたキラは、どこか暗い目をしていた。
 何があったのだろう。
 さっきまでは普通に笑っていたのに――いや、違う。その手は小刻みに震えていた。


 抵抗したらいけないような気がして、それがキラを傷つけるような気がして、戸惑いながらも腕を回したアスランの身体をキラは乱暴に開いた。
 口付けは息が出来なくなるまで、溺れそうなほど深かったが、ろくに前戯もせずに、まだ硬い蕾に己を突っ込んだ。

 ずいぶんと性急だな、と声をかけてやる余裕もない。
 こんなところで拒絶したくなくて、しかし意識とは別にはっきりと拒絶を示す身体を押さえつけるので精一杯だった。
 とはいっても、抑えきれずに逃げ出そうとする身体をキラに引き戻されて、さらにその痛みに生理的な涙がこぼれる。

 それでも「嫌だ」と「やめろ」の二言だけは、意地でも口に出したりしなかった。


「痛い? ホントに? 身体反応してきてるけど?」

 それはキラが刺激するからだ。
 一方的で乱暴なくせに、何故かアスランの快楽をも引き出そうとする。
 おかげで余計につらい。
 思考がもう、まともに働かなくて。


「痛いのに気持ちいいの? それとも、痛いから気持ちいいのかな?」

 アスランは、今さらそんな言葉じゃ傷つかない。
 今傷ついているのはキラだ。
 だけど原因がわからない。
 泣いてるキラに手を伸ばそうにも伸ばせなくて、伸ばしても何もわからないアスランじゃその手を振り払われるだけで、それのほうが辛かった。
 君は何もわかってないと口には出さずとも、目がそう言っていた。


「アスランってMだよね。肉体的にも、精神的にも、さ」
「ひっ……ぁくぅ…………ん」

 息を弾ませながら突き上げてくるキラは、言葉でアスランを責める。
 なのに頬に触れてくる指は、優しい。


「苦しいのってそんなに気持ちいの?」


 …………何のことだろう。


「キ……ラぁ?」

「だって君ってさ、すぐ自分のこと苛めるじゃない? 見てて苛々する。苦しいほう、苦しいほう、追い込んで」

 わからない。
 キラは何がそんなに苦しいんだろう。
 アスランは、わかってやれないことが苦しいのだけれど。

「そんなに痛いの、好き? そんなに好きなら僕のとこおいでよ? 満足するまで虐めてあげるから」


 何を、したんだろう、自分は。

 痛いのとか、苦しいのとか、そんなのはどうでもいい。
 少なくとも好きではないのだけれど。
 ずっとキラのとこにいるのに。
 キラは何を求めているんだろう。


「ぁああぁっ」

 ぬちゃっと粘着質な濡れた音は、傷つけあふれ出した血の音だろう。
 それもどこか遠くの他人事のように考える。



「ねえ、アスラン?」


 苦痛とか、快楽だとか、それらはとてもよく似ている。
 苦痛が快楽なのか、快楽が苦痛なのか。
 境界線はひどく曖昧で。
 溶け合ってわからなくなっているそこは、どうしようもなく綺麗な色なものだから。
 だから抜け出せない。



 快楽は麻薬に似ている。
 苦痛もまた、麻薬だ。


 そしてなにより、愛しげに名前を呼ぶ彼の声こそが、何よりアスランを溺れさせるから。
 息が出来なくて苦しい。
 でも触れ合えるのが心地よい。
 抜け出せない。

 そのうち、溺れ死んでしまうに違いない。




「ねえってば、何考えてるの?」
「ぁ、どこ……いるんだ………ろ、って」


 ……どこ?

 水の中?
 酸性雨の池の中?


「何それ。わけわかんないよ。いるでしょ、ねえ、ここにいるでしょ、君は」



 ああそう。
 キラの腕の中。

 いるから、ちゃんと。
 だから泣かないで。






あとがき。
Mアス(笑)苦痛が快楽なのがアスランで、快楽が苦痛なのがキラかな…………とか。頭沸いたこと考えてました。ごめんなさい。
ってゆうか、結局何故にキラ様は不機嫌だったんだろう(殺)





Back  Top  Next