可能性がある限り


 可能性がある限り。
 どんな些細なことでも、そうしたいと思ったら、どんなに困難なことでも、少しでも可能性があるのだったら、諦めてはいけないと、諦めてしまったら終わりだからと、どこか儚げに笑ってみせた弟の姿を思い浮かべて。
 カガリはギリッと唇を噛んだ。

 諦めない。
 絶対に諦めない。
 諦めてなるものか。

 それがどんな結果を招くかなんてしらないけれど。
 ほうっておくだなんてそんなこと出来なかった。
 何もしなければ何もかわらない。
 欲しいものは手に入らない。
 こんなにも欲しているのに。
 そんなのは嫌だと思うから。

 諦めるなと言ったのは、他でもない彼なのだから。






「いけませんわ。唇が切れてしまいます」

 そっとカガリを宥めるのは、同じ思い出いるはずのラクスだ。
 彼女はいつもかわらない笑顔で微笑む。
 どんなに辛くても、悔しくても、哀しくても、同じ笑顔で。

 その笑顔ににどうして笑っていられるのだと腹が立つ。
 だが同時に確かに慰められるのだ。
 同じ思いをもつ彼女が笑う。
 まだ終わりではないと。
 可能性はゼロではないと、諦めるなと。
 そこにこめられた思いをわかっているから、カガリは一度息をついて、少しばかり滲んでしまったらしい血をなめた。

 丸めそうになった――最初は何度も丸めていた。でも今は丸めなくなった。成長するだけの数の、同じ紙――報告書をラクスに手渡す。
 そこに書かれた情報にカガリの欲しいものは手がかりのひとかけらさえ見出すことはできない。
 同じくざっと目を通したラクスも――カガリの反応ですでにわかったいたことであるが――そっとため息をこぼした。
 今度こそ、と期待するから毎度落胆は厳しい。



 彼らへの手掛りになりそうな情報は、何もない。
 彼ら――戦争が終結すると同時に姿を消したキラとアスラン。
 知らなかった弟と、密かに思っていた仲間。

 でも、仲間だと思っていたのは、二人しかいない兄弟だと思っていたのは彼女ばかりだったのだろうか。
 二人は未練など何もないというように、忽然と姿を消した。
 書き残しすらなく。

 最初は厄介事にまきこまれて浚われたのではと疑った。
 だが、それにしては静かすぎる。
 目撃情報の一つもなかったのだ。
 誘拐なら要求があるだろうし、例え他に目的があったとしてもあの二人が理不尽な扱いに黙っているはずがない。
 なんらかの手掛りを残すはずだ。
 だが、何もなかった。
 いや、なかったのは二人の姿とあとはせいぜいメタリックグリーンの機械鳥くらいで、あとは全てがそのまま残されていた。
 綺麗なものだ。
 争った気配の一つとして見当たらなかった。
 二人がすでにこの世にいないだとかは考えたくはないが、そうでなければ自然自らの意思で姿を消したということになってしまう。




 それに気付いた時彼女は心に決めた。
 必ず、彼らを探しだしてみせると。
 言ってやりたいことが腐るほどある。
 例え彼らが見付けらたくないと思っていたとしても、そんなこと知るものか。
 胸ぐらひっかんで言ってやらねば気がすまない。

 たとえそれが彼らの望みを壊すものであったとしても。
 どうして放っておこるだろう。
 そもそも先に彼女の気持ちを踏みにじったのは彼らではないか。
 だから、彼女は彼女望みを追い掛けるだけだ。
 

 彼らの望みなんか知らない。



 



 だって、言ってさえくれなかった。





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