花束を君に 1-5

 模造紙、マジック、折り紙、ホッチキスの芯、ポストイット以上文房具。
 丁度両方なくなってしまったコーヒー豆に紅茶の葉。
 それからお茶請け用クッキー。海外輸入品売り場で買った。
 新しいクッキングミットが欲しいというので3階雑貨売り場へ行く。
 地下食料品コーナー。お菓子でもつくるのか小麦粉、卵、牛乳、砂糖、ココアパウダー、チーズ、ヨーグルト、豆腐、かぼちゃ、大根、安売りだからと人参、玉葱、アスパラ、烏賊。

 ……………烏賊。
 さらには豚バラが200gってそれはすでに。

「あの、ルルーシュ?」
「なんだスザク? あ、ひき肉300でお願いします」
「いやルルーシュあのさ」
「だからなんだと言ってる。ええ構いません」

 忙しそうだ。
 307gでも問題ないらしい。


「既にリストにないもののほうが多くなってしまった気がするんだけど」

 買い物に来たのは一体なんのためだっただろうか。


「ああ。食材はうちの夕食だ」

 ついでだからすませたと悪びれることなくルルーシュは当然のように言っている。
 いや、特に悪いことでもないのだが。
 それでも一言もないというのは荷物持ちの立場的に若干複雑なものがある。
 決して荷物を持つのがいやだとかいうことを言いたいのではない。

「ついでだからな」

 満足げに笑う。
 
 とりあえず、よかったと思う。
 普段の笑顔だ。
 裏のない、自然な笑顔だ。
 教室でぼーっとしていたルルーシュを、どこかに行ってしまうような気がして必死に呼んだスザクはきっと滑稽だった。
 けれど、我に返ったとき、瞬間的にルルーシュがつけた仮面よりよっぽどましだと思った。
 踏み入れることを拒否する仮面。
 卑怯だ。
 友達なのに。
 親友だと思っているのに。
 彼が何を考えていたのなんかわからないけれど、力になることすら許してくれないだなんて。


 否。
 違うか。
 自分の中の本当の気持ちを探るのはそう難しいことではないが、あきれてしまうことが多い。
 貪欲というのだろうか。
 わがままながきの望みは我ながら鬱になるほどくだらない。

 全てが、知りたいだんて。


 違う人間なのだからあり得ないことなのに。
 できもしないことを望む人間は、おろかとしか言いようがない。
 自分だって言えないことが腐るほどあるくせに。
 しかも相手はつきあっているでもなく、ただの友達だ。
 親友だとかなんだとか言っても他人に変わりはない。
 他の友人より付き合いも長いし、近くにいる自負もあるけれど、でも、これは正しくない、ゆがんだ感情だ。

 不快感を瞬時に苦笑に入れ替えてしまうのはもう慣れてしまった。慣れすぎて無意識にやってしまっていることも多い。
 それからとがめるようなパフォーマンスも。
 とがめるだとか可愛らしい言葉じゃすまないようなことを考えながら。

 

「やはり買い物は荷物持ちがいるときに一度にすませてしまうに限るな」

 悪戯っぽい笑顔は、綺麗だ。
 似合うというか、やわらかな微笑みもいいけれど、こっちのほうがイキイキとしていて硬質な美貌が引き立つ。
 無意味な色気は正直毒にしかならないので、分不相応に他の人に見せないでほしいなあなんて思う。

 高鳴った胸に間違っているだろと自己嫌悪に陥る段階はもうすぎさった。
 僕のせいじゃない。
 彼が、ルルーシュが公害的にエロいから仕方ないのだ。
 仕方ないことは仕方ないこととして受け止めるべきだろう。
 彼を戒めても自覚などないだろうし、馬鹿かとののしられることが明らかであればスザクが友人としてすべきことは1つ。

 全力で守れ。

 以上。


 こうやって忠犬が誕生した。
 方向性が何かおかしくないかと教えてやれる人間は、残念ながら未だにあらわれない。


「荷物持ちぐらいいつでもするけどさ。君に重い荷物は似合わないしね」
「お前、馬鹿にしてるだろ」
「ええ!? そんなことないよ」


 細い身体に細い腕。
 筋肉がつきにくい体質だとぼやいていたけれど、脂肪もつきにくい。
 腕なんか力を入れてつかんだら簡単に折れてしまうんじゃないかと不安になる。
 砕けたりしてだなんて物騒なことを考えるのはさすがにスザクの握力があってこそだろうが、今のは別に非力だと馬鹿にしたわけじゃない。

 まあ確かに、力は強いほうじゃないし、体力も言っては悪いが、スザクからみればないに等しい。
 そんなことを言えばまた、お前が異常なんだ体力馬鹿だとか言われてしまうのだろう。

 話がずれた。
 今は、そうではなくて。
 単純に絵柄として似合わないと思う。
 女王様然としているのが最も似合うと思うのは、ルルーシュの顔の雰囲気によるもので、彼の性癖ゆえではない――おそらく。
 外見に反して意外と家庭的なのは知っている。
 料理が上手なのも、節約を心がけていることも、家計簿までつけていることだって。
 理想的だ。
 ぜひとも嫁に欲しい――本人に鼻で笑われる映像が流れた。


「なんていうか、その! 夢がくずれっていうかイメージじゃないっていうか」

 鼻で笑うえらそうな態度にちょっとときめいたとかもう駄目すぎる。
 後ろめたさも手伝って、あせあせと言葉を重ねるスザクをルルーシュは半眼でみやってあきれたようにため息をついた。

「アホかお前は」

 一言だ。
 一言で切って捨てられた。

 まあそうだろう。
 当然だ。
 思ったことを嘘偽りなくいったとはいえ、自分でも何考えてんだと思った。

 友達として失格だ。
 ああ泣きそう。

 だなんていって落ち込む時期も既に過去の話だ。
 まことに残念なことであるが。

 何年一緒にいると思っているのだ。
 こんなことでいちいち心乱されていたらやってられないではないか。
 既にルルーシュ本人に責任転嫁する方法を取得して久しかったりする。


「ひどいな。本当のことなのに。あ、まってよ。おいていかないで!」

 本当は走るまでもなくおいつくのだろうが、さらにへそをまげられても困る。
 わざとゆっくり3歩で横に並んだ。

「筋肉でものを考えるなって言ってるだろ。口に出す前に一度考えろ」
「うん。そっちも持つよ」

 にっこり笑って、ひょいと右腕にかかっていた買い物籠も取り上げる。
 若干かさばって持ちにくいが、重さ自体に問題はない。
 問題があるとすれば、ルルーシュの腕が圧迫されていたことによって赤くなってしまっていることだ。
 
「おまえ、会話する気はあるのか!?」
「い、いひゃいひょ」

 両手があいたのをいいことに、ルルーシュがほほをつかんでひっぱってきた。

「ひょへんってひゅひゅーしゅ」
「ったく」

 舌打ち一つ。
 なんだかんだと悪態はついても取り返す気はないらしい。
 使えるものは遠慮なく使う。
 実に彼らしい。

 ああもう可愛くってどうしよう。



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