妊婦ルル 4/6

注意:適当な人がいなかったのでオリキャラ出しました。

















 あれから2ヶ月。
 人間どうにかしようと思ったら意外とどうにかなるものだと思った。
 やはり手に職はつけておくものだ――これが手に職というのか一般的には甚だ疑問であるわけだが。
 資格職でもなく、潰しもきかないが、人は住めば集まるし、溜まれば酒を飲み遊ぶ。
 遊ぶと言ってもまさかいい年した大人がそこで鬼ごっこやTVゲームに勤しむわけがなく、サッカーやら野球やら健康的なスポーツに興じるはずもなく、つまり――賭事だ。

 

 カードが最も手軽でメジャー。
 大きなところならルーレットにスロット。
 それからどこでもやっているのがチェスだ。
 とはいえルールの簡単なカードと違い、一戦に時間がかかりどこにでも鴨が転がっているわけではないというのが難点だ。
 腕に自信のないものはそもそもチェスに手を伸ばしもしない。
 だが、一戦でかなりの金が動く――つまり一回勝てばしばらく何もせずに暮らせるし、一度でも負ければ……まあ負けることなどないからルルーシュには関係ない。
 カードも心理戦故に自信がないわけではなかったが、個人的趣味でチェスの一本に絞っている。

 

 最初に賭けチェスに誘ってくれたリヴァルにはとても感謝している。
 今度会ったら――会うことがあったら、欲しがっていたバイクのパーツぐらい買ってやろう。

 

 これでルルーシュが楽しめるくらいに腕のいい打ち手がいればもっと理想的だったのだが、荒稼ぎさせてもらっている身で贅沢は言えない。
 その荒稼ぎのせいで一所に長くいるのは危険であったが、それももともとしばらくは流浪の民でいるつもりであるので問題はなかった。
 しばらく――そう、腹が目立ち始めるまでだ。
 さすがに一目で妊婦とわかる女を相手にしようと思うと思う人間などいないし、子供を産むと決めたのだから安静にしておいたほうがいいだろう。
 しかも子供を抱いて賭場に行くわけにいかないとなれば、それからしばらくは稼ぐことができなくなってしまう。
 必然的に荒稼ぎせざるを得ないのだから、今のルルーシュの生活は当たり前といえば当たり前、最善でなくても適切であると自負していた。

 

 だから今日もドレスをまとい、ルルーシュはタクシーを捕まえる。
 ドレス――そう、ドレスだ。


 身を隠すのだから変装ぐらいしていたほうがいいだろうと思ったところで、もともとが変装しているようなものだと気がついた。
 ルルーシュが本来ならばなんら異常のない女の格好をしているだけでもだいぶ印象が異ってくる。
 はじめはつけていたウィッグも、もともと最近長くなってきて切らなければと思っていた矢先であったので、そろそろはずしても日常生活には支障がなくなってきた。賭場には女を印象付けるため、腰程まで長くしている。

 首も腕も露出を抑えた飾り気のない地味なドレス。
 膝丈のスカートに黒のパンプスのヒールはなかなか慣れずに足が痛くなるのでそんなに高くない。もともとの身長が女性にしては高いので高いピンヒールなどは威圧感を与え、むしろよろしくない。
 賭場では浮くほど地味な格好は相手の慢心を誘い、意外と利点が多いことを知った――初めは溶け込んでしまえるよう露出度の高いルルーシュからしてみれば妖艶なドレスを着たほうがいいのかと思ったが、あまりにも絡まれたため早々に路線を変更した。
 欲望にギラつかせた目をしている男を退けるのは、出来なくはないが、あくまで出来ないというわけではないのだが、今まで楽だといって男のようにふるまってきたルルーシュにとっては、正しく苦痛であった。

 

 

 

 

 

















 

 今日の職場は賭場ではなく、名目はパーティーだ。
 だがその実体は、主催者がキングであれば知れたもの。
 女を侍らせ金を動かすだけの優美さとはほど遠い代物である。
 だからこそ、いい金蔓が見つかるのではあるが、あまりの下品さに思わず眉が寄る。

 

 しかも、このパーティーの目的は、目を覆いたくなるほど下劣極まりない。
 一人の老人を吊し上げるところにあった。


 話は簡単だ。
 企業を持つ初老の男。
 経営はそこそこうまくいっていたはずのところに突然の買収話。
 男が受ける利益は何もない。
 それどころか乗っ取られれば、質より利益追求の姿勢に職を失うものが大量にでるのが明白だった。
 当然男は会社を守ろうとする。
 だがすでに周到に根回しされた圧力は、男に判を押させる以外を許そうとはしなかった。
 そこに最後の希望のように差し出された利権をかけたチェス勝負。
 のるかそるかと言われ、罠とわかっていても乗らないなどという選択はできるはずがない――だいぶ簡略化したがおおよそこんなものだ。

 

 セッティングされた舞台。
 バージンロードは破滅へと続く。
 たとえ勝ったとしてもそこに救いはなく、あがく時間が伸びるだけなのはわかりきっていた。それほどまでに張られた根は深く。
 しかも相手は自分の腕に絶対の自信を持っている。
 万に一つも勝てる可能性はない、と見られた。

 

 

 それでも。

 

 


 ルルーシュが彼に目を付けられたのは勿論同情などではない。
 企業はたったり潰れたりで成り立つものだ。
 しかもこの国は弱肉強食の国。
 自分に関係ない彼がどうなろうと知ったことではない。

 

 

 が。

 

 注目すべきは自分の利益だ。
 簡単に言えば、金。
 この一言に尽きる。

 

 勝っても負けても結末が同じだとしても、ここで勝つのは大分違う。
 少なくとも、相手の目的が、心を折ること、屈辱を与えることであれば。
 勝てば幕引きぐらいは自分の手で行える。最後の最後に無様な姿をさらすことが――ゼロにはならなくても、必要以上のそれが削れるのであれば。

 


 そうでなくても勝負と名の付くものであれば。

 

 人は勝利を望む。

 

 

 


 だが一言に代打ちと言っても簡単なことではない。
 彼が代打ちを容認するか、女などに任せるか、相手がそれを認めるか。
 ルルーシュの前にはクリアしなければならない条件が並ぶ。
 だがそもそも自信がなければ臨んだりはしない。

 キングを倒すのは問題にすらならない。
 あんなやつ数分で膝を折らしてやる。

 男に取り引きを持ちかけるのに若干労力を使わされた。
 だがそれだけの価値があると判断したのは、金以上のものが手には入る見込みがあったからだ。
 労力とチェスの腕以上のものを提供するだけの価値があると。
 もの、というか場所というか。
 
 なんのことはない。
 正直そろそろしんどくなってきたのだ。
 見張られていることに気づいて家を出てきたはいいが、各地を転々とするのは思っていた以上に負担がかかる。
 出てきてから見張られたり、つけられたりされていることを感じたこともなければ――自分の感覚だけを信じることは危険だが、仕掛けたトラップにひっかかる者はなく、接触を図ってきた者もなかったので、すぐに危害を加えてくる気はやはりないのか、あるいはまだ見つかっていないのか、………見つける気もないのか。
 あちらからもアクションがないというならそろそろ一度腰を押し付ける場所を見繕ってもいいかもしれない。そう考えるようになっていた。


 とはいえ、どうしても大手を振って外を歩こうという気にはなれなかった。
 ルルーシュは己がそこまで大物であると自意識過剰になる気はなかったが、安全策をとっておくに越したことはない。


 そうなってくると心配なのは家に残してきたロロのほうだが。
 ミレイからの連絡がないところを見ると大丈夫なのだろう。
 本当に目的がわからなくて、困惑する。あれだけカメラをしかける奴らならすぐに追っ手を差し向けてくると思っていたのだが。考えたくはないが、変態趣味のストーカーだったのだろうか。

 ロロに会いたい。
 会いたいし、話したい。声を聞きたい。
 その気持ちは本物なのだが、ルルーシュから連絡をとることによるリスクを考えるとそれもできなかった。
 真実を明らかにしなければならない。
 一刻も早く、安心して暮らすために。
 そのためには準備は万端にしておかなければならなければ、時期というものがある。とはいえ求める気持ちだけはどうにもなりそうになかった。
 だが、今が耐えるときだというならば、耐えてみせよう。
 その後の未来のために。


 手に入れるべき場所の条件は、目立たず一般的で更に何かあったときには対処できること。
 権力か金か。
 両方あれば申し分ない――基本金は権力に集まるものであるが。

 条件を満たす物件で、さらに付け入ることのできるもの。
 その該当者が彼だった。
 ディーター・ベルネット。
 細かい経緯は省略する。
 二言で言えば、接触をはかり、取引をもちかけた。
 ルルーシュが提供するものは、頭脳。
 勝負に勝ち、その上で会社をその手に取り戻す方法を教えると――そもそも彼が失脚してしまえばルルーシュとしても利がないわけだ。


 突然現れた女を警戒するのは当然だ。
 だがそれでも最終的に折れるほどに彼にとっての事態は切迫し、悪魔にすがるほどに後がなかった――実際は勝利の女神となるだろうが。
 どちらにしろこのままでは負けるのだという諦めもあったのだろう。
 だがそれ以上にルルーシュは自らの魅力によって契約を勝ち取った――溢れる自信と、デモンストレーションとしてみせた実力、提示された条件とそして美貌だ。


 ああそう、最近自分の容姿を利用することを覚えた。
 男の服をまとっていた時には考えつきもしなかった手段だが、やけに絡まれるので一度ふと思い立って使ってみたところ、おもしろい具合に事態が転がりだしたので重宝するようになった。
 持っているものを最大限利用して何がわるい。使うことに躊躇いはない。が、使い方を間違えば即命とりとなることぐらいはわかる。今まで女性として過ごしてきたわけでないルルーシュにとって、加減がいまいち難しい。よって用いる時は慎重に使うようにしている。

 

 計画は現時点でとても順調だ。

 会場に行く前に男と落ち合った。


 優しそうな男だというのが印象だ。甘さとは違う。いい祖父にでもなりそうな彼は、仕事にかまけていたために子供はいないのだと語った。
 もったいないことだと思う。
 彼のような人物こそ子をなすべきなのではないか。あんなやつばかりばかすかつくっているなんて間違っている。まったく嘆かわしい。

 

 そこまで考えてあれ?とルルーシュは首を傾げた。
 あいつで思い浮かべたのは父親のシルエットだ。早くに死んでしまったため顔は朧気にしか思い出せない――そういえば写真なども見せてもらったことがなかった。何故だろう。母を気遣って話題に上らせなかった気もするし、純粋に写真がなかったのかもしれない。

 だが子供は確かルルーシュとロロの2人だったはずだ。
 なんでこんなことを考えたのだろう。
 なんで………思い浮かべたシルエットを父だと思ったのだろう。

 

 いや、今はそれはどうでもいいことだ。

 

 

 責任と自制を知る、だが同時にユーモアをも持ち合わせているはずの彼の顔には以前ネットで見たときの意志のあらわれた輝きはなく、疲労感が浮き出ている。
 残念なことだと思う。

 多くの候補の中から彼を選んだ理由は主に先に述べた通り条件に合致したからだが、この男に好意を持ったからとも言える。
 少なくとも利用するだけならルルーシュ側から出す条件を変えていたはずだ。

 

「不安ですか」
「いや………、いや、そうだな」


 首を振りかけてから、気が変わったように頷いた。

 

「私は信用に値しませんか」


 信頼を――信じて頼れとまでは言わない。そこまでされればむしろ軽蔑に値する。
 だが信用を――信じて用いることぐらいはしてもらいたい。
 既に彼とルルーシュは運命共同体、共犯者なのだから。

 

「そういうわけではない。だが何か見落としているような。そんな嫌な予感がするのだよ」
「予感?第六感を信じられるので?」
「そう馬鹿にしたものではないよ。勘というのは当たるときと当たらないときがあるが、先のことはわからない。何があってもおかしくないのだから。しかも我々が今立っているのは一本の綱の上だ。常一倍用心するに越したことはないだろう」


「綱は太く地面は近い。それに私はバランス感覚には自信がありますから。なんならおぶっていって差し上げましょうか」

 


 だから安心しろと言えばうっすらとだがやっと笑顔がかいま見れた。まあまだマシだろう。
 上に立つ人間は常に堂々としていてもらわないと困る。
 志気に関わるし、それに何よりこれは賭事だ。
 嘘とはったりの世界なのだから。

 


「細い肩をして何を言っとる。それならまだこの老いぼれのほうが役に立てるというものだよ。落ちたときの踏み台くらいにはなれるからね」


 笑えない。

 

「落ちませんよ」


 素っ気なく言い放ったルルーシュに、ベルネットがふいに真剣な顔つきで向き直った。


「ああそうだとも。君は落ちてはならないよ。何があろうとも。私を蹴落として
もだ。それは約束してもらおう」


 なんていい人だろう。喜びも蔑みもなくただたんたんとそう思った。
 お人好しめ。
 つい数日前に出会った人間にここまで心を砕くのか。


 なんたる愚かしさ。
 こんなにも自分が絆されやすいだなんて。

 


「既に私の未来はあなたと共に」

 

 約束しなければ置いていくと宣言通りに彼が足を止めるがルルーシュは構わず足を進めた。
 後ろに声をなげかける。

 

「と、いいたい所ですが、ミスター、私にも私の目的というものがありますから、自己保身のためなら貴方を切り捨てます」

 

 ご心配なくと伝えると信じたのかどうかは別にして男の足が動き出した。
 意外と本心だったりもするのだが、先のこと。こればかりはわからない。
 

 

 

 

 

 



















 下調べはすんでいたが、キングは実際会ってみれば更に嫌な男だった。
 人間関係は第一印象が左右すると言うが、ならばこの男と相容れる可能性はゼロだ。

 

 品格って顔にでるんだなとやけにしみじみ思った。眉毛とか最悪だ。

 

 いわゆるバニーの格好をした女達をまわりに侍らせ、ルルーシュをなめ回すように見やる目が気持ち悪い。
 叩き潰そう。
 もとより手加減してやる気などこれっぽっちだってなかったが、決意が更に固くなった。


 ルルーシュは斜め後ろから男の背中を見ながら、既にセットされた舞台へと足を進める。
 キングがソファにゆったりと腰をかけ、席に着くように求めたところでさっと前にでた。
 キングの眉が上がるのを確認してからルルーシュは優美に唇に笑みをはいた。唇だけに。

 


「なんのつもりかな」
「このチェス勝負、私が打ちます」

 

 あからさまな侮蔑の眼差しと笑いがこらえきれていない声を鬱陶しげに振り払いながらルルーシュが言えば、とうとう彼は声にだして笑い出した。

 


「これはこれは。笑わしてくれる。こんな小娘に勝負を託すとは、墜ちたものだな。それとも敗北宣言の代わりのつもりか?負けるのがわかっていても土俵に登るぐらいはするかと思えば。無様だな」
「どうとってもらっても構わん。代打ちを認めないとは言ってなかったな?」

 

 落ち着き払ったベルネットに笑い声が更に大きくなった。
 キングは鼻で笑うとルルーシュを見て唇の端を上げた。
 頭の中ではおそらくルルーシュが破廉恥な格好でもしているのだろう。
 不躾な手に触られているような感覚は最高に不愉快だ。
 だがその頭をヒールで踏んでやるのはチェスに勝ってからだ。
 ここ最近で一番の自制心を総動員して、ルルーシュは微笑んだ。
 見るものが見れば、微かにひくついてるのがわかったかもしれないが、動じないルルーシュにキングも不愉快げになる。

 

「だが許可した覚えもない」
「貴方が負けないのでしたら問題はないでしょう? それともその小娘に負けてくださる気でも?」

 

 あるいは自信がないか――天狗になっているこの男が自分の勝利を揺るがないものとしているのは誰の目にも確か。
 だがあえて口にしたルルーシュにキングが目を細めた。
 あと少しだろう――いや、彼はベルネットを貶めたいだけで本気でルルーシュと打つのを拒否しているわけではない。

 

「自ら恥の上塗りをする気か」
「こちらの恥だ。貴様にとっては痛くも痒くもないはず」


「有名な打ち手と聞きました。どうせ負けてしまうのなら、どうか一戦手合わせをさせて欲しいと無理をお願いしたのはわたくしです」

 

 

 まあ、勝負は時の運ですが?

 


 事実上の敗北宣言とみせかけながら、その実挑発であったルルーシュの言葉にキングが腰を上げかけた。さすがにここは自重するだけの頭があったようだが。

 


「いいだろう。だが私の了承を得ず勝手にルールの追加を行った分はペナルティを科させてもらおうか」
「感謝します」

 

 ペナルティ。
 ふざけた言葉だ。
 何を言ってくるか嫌でも予想がつく。


 もし負けたら――。

 

「この私に万が一勝つことがあれば私に舐めた真似をしたことを水に流そう。だが負ければ、お前を貰おうか」

 

 やはりか好色オヤジが。

 

 まあ負けることなど万が一どころでなく億が一にも兆が一にも有り得ないわけであるが。
 だがもし負けたら股間を踏み潰すところから初めてやろう――想像すれば若干気分が晴れた。


「寛大ですね。ええそれで結構です」


 あげる悲鳴はうるさそうだから猿ぐつわでもかませたい。
 深くソファに座るキングとは対比的に、ルルーシュはふわりと体重を感じさせずに腰を下ろし、黒の駒を手にとった。

 

 

 

 

















 

 

 それってどうなの?


 と、正直彼は思っていた。
 


 部隊にてきぱきと指示をだしながら。
 仕事なのだからおろそかにする気などさらっさらないのだけれど、忙しく動き回る彼を尻目にのんびりとお茶なんか飲んでいる同僚が視界の端に移っていれば、そう思わざるを得なかった。
 


「苦い」
「はは。これは抹茶っていって、その苦味を楽しむものなんだよ」
「……わかんない」


 しかも自分をのけ者にして異文化交流。
 いますぐわって入っていきたいに決まっている。

 

「そうかな? コーヒーだって似たようなものだと思うんだけど」


 淡々と自民族の飲み物を披露しているのが、最近仲間になったばかりの枢木スザク――最近とはいってももう五ヶ月になるのか。
 どうにも慣れない。
 否。
 違う。
 実力主義のこの国で、ナンバーズという最低ライン出身ながら、その実力のみで――まあ付け足すなら運もだが、結局は運だって実力だ――最高の騎士の名を冠するまでに上り詰めた一つ年下の少年の仕事ぶりは、その経歴だけあって大変堂に入ったものであったし、12人の中に肩を並べていてもなんら遜色がなくなってしまっていた。むしろはじめからそこにいたかのように。
 確かに異色ではあるが、それすら当たり前のものとしてしまうほど溶け込んでいた。

 だからジノが気にしているのは、スザクが必要以上に馴れ合おうとしないことだ。
 他の者は当然だろうというし、そもそも馴れ合う必要もないというけれど、せっかく出会った仲間ではないか。馴れ合って何が悪い。
 たまに、とても寂しい目をする少年が気になって、何が悪いっていうのだ。


 冷たくあしらわれてもめげずにくらいつくジノに妹分――と勝手に思っている――で、今はスザクの民族の文化に触れて、口にあわなかったのか渋い顔をしている少女にはマゾかとよく言われるが、最初は新鮮だっただけのその対応が、最近ちょっとくせになってきてしまったから否定できないかもしれない。
 まあマゾでもサドでもかまいはしないが。
 要は幸せだったらそれでいいじゃないか。
 
 ただ、心の底から笑わせてみたいと思って。
 思って色々と誘うたびにすげなく断られ続けた――がもちろん強引に連れて歩いた――スザクが、今日は珍しくも任務内容を聞き自分から、自分から――大事なことなので二回言った――同行を申し出てきたのだ。
 まさに晴天の霹靂。


 あの、めったに表情を見せないアーニャでさえ、驚きを隠さず、しかもついてくると言い出した。
 今回の任務にナイトメアの出番はないというのに、だ。
 こちらはこちらで明日は雪でもふりそうだ。


 だから、うなずいてしまった。

 彼女はナイトメアでの飛びぬけた実力をかわれて抜擢されたのであって、ナイトメアから降りれば普通の女の子だというのに。
 スザクは生身の人間としてそれなりの力を持っているからいいが、小さくて細っこい女の子に、今回の任務は不向きだ。
 事実彼女にこの手の仕事が回ってきたことはない。
 そんなところに連れて行くことに不安を覚えていたのだが、最終的に己が守ればいいという結論にたどりついたジノがいるのに、こうも仲間はずれにされるとちょっとくじけそうだ。
 確かに決意は独断的なものかもしれないけれども。迷惑そうな顔しか思い浮かばないけれども、だ。

 

「俺もちょーだい!」
「はい。口直しに。クッキーしかなかったんだけど。本当はこれ用の和菓子があるんだけどね、さすがに手に入らないから」


 華麗にスルー。


「俺も俺も!」
「和菓子?」
「うん。羊羹とか、落雁とか。っていってもわからないか。えっと。小さくて可愛いのが多いよ」
「見てみたい」

 


「無視!?」

 

 ひどいひどいひどいと一人で黒い雲を背負いだしたジノに、二人がくるりと振り向いた。

 


「「仕事」」

 

 見事にハモった。


 ひどい。
 ああひどい。
 そりゃあ確かに彼らの仕事ではないかもしれないが。
 まさか遊びにいくわけでもないのに。
 っていうか本当に何しにいくんだ。
 特に枢木スザク。


 少しは手伝ってくれてもバチはあたらないんじゃなかろうか。
 お茶なんか飲んで。
 ああ、羨ましい。


 まさか彼が何の目的もなく、ただ協力するためについてきただなんて、そんな甘い考えはもっていない。
 何かあるのだろう。
 何か。

 でも、何だ。


 ざっと考えてはみたが、今日の任務内容からは皆目検討がつかなかった。
 だからとりあえず考えるのは放棄した。

 まさかジノたちの不利になるようなことはしないだろう。もしするとしても、そこには何かしら重大な理由があるはず。

 ならばそのうちわかるはずだと時間もなくなってきたので自分を納得させた。

 

「まあいいや。、そっちの準備できたか?」


 楽しく談笑なんかしていたようだが。

 

「ジノ待ち」
「時間かい?」
「ああ時間だ。じゃあ」

 

 行こう。

 


 部隊には持ち場にて待機命令を。

 そろった三人がまとうのは騎士服ではない。 
 フォーマルなスーツにドレスだ。
 さすがに貴族の二人が服装に困ることはなかったが、そういえば持ってないと言い出したスザクにあわせて、ついでだからとみんなで仕立ててみた。
 任務とはいえ――と思っているのはジノ一人かもしれいが――三人でわいわい楽しくやれたから大満足だ。


 面倒な仕事にも気合が入るというものである。 


 






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【言い訳】(反転)
書き終わってから消えた不遇の回ですorz 素で落ち込みました。明日テストなのっ!!(勉強しろよ)
ジノの一人称がわかりません。仲間内でも「私」ですか? ……9話のどっかで言ってないかなあ
適当な人がいなかったのでオリキャラだしました。雰囲気壊さないように名前つけるよう心がけたんですが、どうなんだろう。基本ドイツ系でいいのかな。あ、いや、待てシャルルって。
ちょっとなんていうか分割の方法がわからなくなってきました。気づいたら7話になっていそうで怖いです。ええ、ならないようつめますけど