注意:矛盾点がある気がしてます。生暖かくスルーしてやってください(待て)
首の後ろのあたりに何か、違和感のようなものを感じて。
ルルーシュは後ろを振り返った。
横にいたリヴァルが突然足をとめたルルーシュを数歩おいていってしまってからあれ? と足を止める。
「おい、何やってんだよ?」
何、やってるんだろう。
確かに。
振り返った景色に普段とかわったところはない。
白い校舎とそれぞれの目的を持って行きかう生徒たち。
何も変なところが見つからないというのに、なんだかざわざわする。
「お〜い?」
数歩、後ろ向きのまま戻ってきたリヴァルにも変わったところはない。
「どうしたっていうんだよ?」
「いや……。何か。なんていうんだろう」
「はあ? ちょっとちょっとちょっと、ルルーシュ、大丈夫か?」
最近変だとどうやら真剣に心配しているらしい口調で言われた。
「いきなり何日もこなくなったり、その前から情緒不安定っぽかったし」
情緒不安定。
「そうか?」
自覚はなかった。
指摘されて純粋に驚く。
「そうなんだよ!」
確かに体調に関して心配事があったし、まあ、原因も判明したわけだが。
まさかリヴァルにまで感づかれてるとは思わなかった。
自分では極力常と同じようにふるまっているつもりだったのだが。
まったく修行が足りない。
「悪い。もう大丈夫だ」
「ほんとかよ。じゃあ今のは何なんだって」
今のは………。
今のはおそらく、それとは無関係のもの、だと思う。
「なんていうか、見られてる気がして」
やはり自意識過剰なんだろうかと苦笑してみせたルルーシュに、リヴァルが目を丸くした。
「はあ!? おまえそれ今更だろ。あっつぅい視線をいっつも集めてるくせに何言ってんだよ」
「なんだそれは」
「自覚なし!?」
あれだけあっつい視線を受けておいて無自覚とは何事だうらやましい奴めとリヴァルは言うが、まあ熱いかどうかは置いておいて、生徒会という立場により人前にでる機会が多いルルーシュだ、何の役職にもついてない人より広く全校生徒に顔を知られているのは当然であるし、見知った顔はついつい見てしまう人の心理より視線を受けやすいのは自覚している。同じ生徒会でもリヴァルよりもルルーシュのほうが副会長として露出が多いから、リヴァルが自分と比較して言っているのならそのせいだろう――そういうことではないとリヴァルは言ったが、今は特に関係ないのでいい。
ただそんな類の視線なら受けなれているのだから気になったりしない――いや、子供ができて情緒不安定だったというなら神経過敏になっている可能性は否定できないが。
なんとなく質が違う気がしていた。
「そんなんじゃなくて、なんというか」
なんというか………。
そう。
「見張られているような」
「ストーカー!?」
「いや…………、それも違う、ような?」
ストーカーのような粘着質な感情によるものではなく、とても無機質で冷たい感じの……。
とはいえ、人の視線は物質ではなく、見えも触れもしないものだ。
確証はなく、気のせいだと言われてしまえば気のせいな気もした。
「なんだよはっきりしないなあ」
リヴァルの不満ももっともだ。
ルルーシュだってはっきりしなくて気持ちが悪い。しかも環境の変化によりなんでもないことを気にし過ぎている可能性もあるのだ。もしそうだったら騒ぎ立てている自分は本当に馬鹿らしい。
ここにスザクがいれば………いや、詮無いことを考えてしまった。
スザクがいれば自分は自分のことだけ気にしていられるのに、なんて。そりゃあ確かにかの幼なじみは野性的勘がどうなんだと言いたくなるくらいに発達しているし、ルルーシュに対し無意味なまでに過保護に接してくるので、任せておけば大抵においては確実と言えるだろうが、これはちょっと依存し過ぎだろう。
己の甘えきった根性をどうにかせねばなるまい。
ならばもしかすると今回のことはいい機会かもしれない。
最近のルルーシュは弛みすぎだ――まったくみっともない。
少しのことで取り乱して冷静な判断を投げ出すなんて。子供ができていたと知った時だって、怯えて何になるというのだ、もっと他に考えなければならないことはあったというのに情けない。
その点ミレイは本当に強いと思う。
いつだって前を向いて生きてる彼女はとても綺麗だ。
生命力に輝いている。
見習わなければと、思った。
世界に自分一人だけだなんてそんなはずはなく、ルルーシュなんかより過酷な運命を背負った人だって多くいる。
おろしたくないではなかったけれど、理由すらわからなかったけれど、おろせないと思ったのなら産むしかないだろうに。
答えなど最初から一つしか用意されていないというのに、無駄にグルグル考え込んで、非効率極まりない。
人より優秀だと自負するのならその能力はもっと違う活かし方があるのになんと無意味な時間を費やしたのか。
そうだ。
違う使い方がある。
悩むのはルルーシュには似合わない。
悩むのではない、考えるべきだ。
「少し調べてみるか」
「へ、何か言ったか?」
「いや、なんでもない。ほら、はやくこないと置いていくぞ」
「ってルルーシュが急に止まったんだろー!?あ、待てよ」
調べてみよう。
何もないならそれでいい。
もしも何かあるというならば…………、その時こそ使い時だ。
思考だけなら机上の空論。意味はない。
それだけの能力があると自負するのだったら。
最悪だ。
この一言に尽きる。
今なら自己嫌悪で死ねると本気で思えてしまうほどに。
壁を殴りつけたい衝動を必死で抑えた。
もちろん理由がある。
それさえなければ躊躇いなく蹴っていただろう――否。それさえなければこんなに苛立つこともなかったのか。なんにせよ壁を殴りつければ痛むのはルルーシュの手であっただろうし、たとえ蹴るほうに変えたとしても反動でひっくり返ったのではないかと思われるので結果的には良かったはずだ。おそらく。
といって気が晴れるわけもないが。
廊下の角。
花瓶。
本の隙間。
ゴミ箱に。
壁の中。
これが一体何をさしているか。
――――――――監視カメラの設置場所だ。
掃除の名の下に目を光らせてみれば、ぞっとするほど見つかった。
もちろんカメラがあれば映像の送信先があり、私生活を把握されているということだ。
今現在も見られている可能性は大きく、下手な手を打てないため、カメラには気づいていない風を装ったことにより深追いはできず、おそらく全てを見つけることもできてはいまい。
目立つところのみだ。
カメラは見えなければ意味がないのだから、完全にこちらか見えないところにはないとはいえ、巧妙に隠されていればまだ腐るほどあると考えたほうがいい。
送信先を割り出してやろうとも考えたが、それでは気づいたことに気づかれる。
敵の姿も目的もわからにあ状況でそれはできない。
相手さえわかれば、目的だけでもわかっていれば。
まだ対応の仕方もあったというのに、考えど考えど、候補ばかりが増えるだけで可能性が5割を超えるものはなく、苛立ちばかりが募っていった。
1つだけ、とても恐ろしいことを考えた。
腹の子がもし、他人によって実験的に植え付けられたものだとしたら――。
ルルーシュはモルモットであるという可能性。
SFみたいなことが自分におこってたまるものかと振り払ったわけだが。
今の状況ではそれが、可能性の一番上に上がってきているということがなんとも薄ら寒いではないか。
いや、必ず、必ず何かあるはずだ。
こんな馬鹿げたことではなく、つじつまのあった真実が。
だが、調べてみて本当に良かった。
わかったことがいくつもある。
1つ。見張られていることが確実であること。
2つ。おそらく標的はロロではなく、ルルーシュであるだろうということ。
家中まわったが、カメラの数の比から言ってそれは間違いないだろう。
カメラはルルーシュの行動傾向に準じて仕掛けられているように思えた。
ロロの部屋から発見されなかったとなればあからさまだ――ここで、仕掛けたのが他でもない弟という線がでてきたわけであるが……馬鹿な。もちろん一言で切り捨てたに決まっている。
ルルーシュの部屋ではどうして今まで気づかなかったのか、自己嫌悪に浸るほかないほどに見つかったというのに。おそらくルルーシュの部屋で死角はない。いつからなのか定かではないそれに恐怖を通り越してもはや怒りしかわいてはこない。
気づいてしまえば、相手の目的が何であれ、それが誰であれ、このままでいられるわけがない。
危害を加えられないという保障もないし、そもそも見張られているということ自体到底許せるものではない。
安心してこのまま暮らすことなど不可能。
理想的なことを言えば相手に気づかれずに相手の正体が知りたい。
引きずり出すのは悪くはないが、相手の数がわからない限り、非常に危険な賭けとなる。
自分の打つ手が自分の首を絞めかねないとなれば、安易には動くに動けない。
いや、それも選べないことではなかった。
けれどルルーシュには守らなければならないものが、弟がいるのだ。
ロロが現時点で直接的な標的でないからといって絶対的に安全だと誰が言えるだろうか。
もしもロロにまで手が伸びるようになってしまったら?
もしも人質にでもされてしまったら。
それを考えてしまえば怪しい行動などとれるはずがない。
エサとなるのはあくまでルルーシュのみでなければ――ではどうするか。
いっそ物理的に離れてみてはどうだろう。
真実、ロロが相手のリストに載っていないのならば、ルルーシュが近くにいるよりよっぽど安全だろう。
監視の目をかいくぐって姿を隠すことぐらいならば、ルルーシュの頭脳を使えば難しいことではない。既に16通りの方法を考え付いた。
こちらからおこしたアクションにあちらは行動をおこさないなんてことは考えられない。
それに、ルルーシュには、もう一つ、抱えているものがある。
産むと、決めたのだ。
決めたからには途中で挫折などしてなるものか。
もはやプライドの問題だが、こうなればどんなことがあっても産んでみせようではないか。
私の子だ。
誰にもやらない。
一度開き直ってしまえば、今の状況はこれはこれでいい気がしてきた。
このまま生きていっても自分に男などできる気がしなかったし、子供が欲しいかと問われれば考えたことがなかったというのが正直なところではあったが、せっかく女に産まれたのだから、産んでみるのも悪くない――そもそも生物が生きる目的自体が子をなすことではないか。
何よりルルーシュは、邪魔をされるというのが大嫌いだ。
カメラを仕掛けた者が何を考えているのかは知らないが、喧嘩を売っていることだけは間違いない。
売られているなら買ってやろうではないか。
そして買うからには、勝たなければ。
駒は動かさなければ勝負は進まない。
時にはひくのも戦略だ――いや、今回は引くのではない。
誘いこみ、罠にかけるのだ。
そのために必要なのは何か。
情報に、時間。
安全に目をつけるならば、安心して産むためにさっさと片付けてしまうか、産んでしまって確実に動けるようになってからしかけるか。
2つに1つ、だが。
相手の姿が見えないならば、長期戦も覚悟したほうがいいだろう。
となるとまず自分の立場を固めるのが先決か。後者のほうが状況には合致している。
同時に情報も欲しい。
そうやって考えていくと行方をくらますというのはなかなか効率的な手に思えてきた。
この場で暴れてロロの近くに引きずり出してしまうよりは、一度離れて遠くであぶり出てきてもらったほうがよほど簡便で確実な手段ではなかろうか。
更に監視下でなく子供を産むことができるわけだし、その前にみつかってしまえばみつかったで、さっさと片をつけてしまうこともできるわけだ。
自分たちから姿をあらわしてくれるなら願ったり叶ったり。
また、ルルーシュを探すというのなら、その情報から反対にたどることも可能になる。
監視しているカメラをいじるのに比べればよっぽど安全であるし、潜伏しているのを無理に引きずり出すより自分から巣穴から顔をだしてもらったほうが楽でいい。
ここでクリアすべき条件は1つか。
ロロだ。
行動は慎重でなければならないが、同時に早急に行わなければならない。
そちらも手をうとう。
どこの誰だか知らないが、このルルーシュ・ランペルージに喧嘩をうったのだ。
目に物見せてくれよう。
最初は壁をなぐりたくて仕方なかったが、その衝動も計画を一つ積み上げていくたびに潮がひくようにひいていった。
整列した黒の兵士を1マス、動かす。
先手は向こうだが、まだ一手目。
はじまったばかり。
ルルーシュは黒を持ったとき、負けたことなどないのだから。
これからだ。
ここからが、勝負だ。
変化?
まさかそんなもの見せるはずがない。
ただ引きこもってしまったせいで何かしら警戒心をもたれてしまっている可能性は否定できない。ルルーシュはそれから一週間ほど生活を完全に元に戻した。
人の警戒心というのは基本ゆるむものだ。
1、2日目、どれだけ警戒していても3、4、5日で警戒している状態に慣れてしまうし、6日目には飽きる。
7日置けば1日でも早く手をうちたい状況なら、そろそろ妥協することも可能な時間だ。
一度たるめばまた気合を入れなおすこともあるので、時期は誤れない。
実際復学1日目にあんなに気になった視線はもうほとんど感じなくなってしまった。
慣れたのではない。
むしろXデーを決めてしまったルルーシュの緊張は一日一日高まっていた。
ロロのことはミレイに託すことにした。
何かあったときのための連絡先だけ教えた彼女は、寂しそうな顔をしただけで、何も言わなかった。
かえってきたら教えるといった言葉を、信じたかどうかはわからない。
「な、な、ちょっと買い物につきあってくれないか?」
「買い物?」
「や、ほら、なあ」
悪友がちらっと窓の外を見て言いよどんだので思わず笑ってしまった。
外に誰かが……彼女がいるわけでもないのに。
まったくもっていじらしい。
「誕生日はまだだったろ?」
「へ? だ、誰も会長にとは言ってないだろ! …………まだ」
「俺も会長の、なんて言ってないけどな」
「あ……」
うかつな奴め。
まっとうな学生らしく恋愛しているリヴァルは、赤くなったり青くなったりで人生楽しそうだ。
つぶれた頭を持っていた教科書で軽くたたく。
「どこに何を買いに行くんだ?」
「ちょっとそこー! 放課後は生徒会全員出席だって言ってたでしょ!」
耳ざとく聞きつけたシャーリーが割って入ってくるがリヴァルは問題ないと言い返す。
「放課後までには帰ってくるって」
「それって今から行くってこと!? 全然問題なくなーいっ! 授業サボるの!?」
叫ぶ彼女の声を背にバイクまで走った。
「で、どこに行くんだって?」
メットを受け取り、サイドカーに乗り込む。
返ってきた答えは、やはりどこまでもいじらしく…………、なんかむしろ泣けてきた。
彼もとことん報われない。
「会長が昨日話してたケーキ屋」
「ああ、新しくできたっていう?」
「そう! 食べたいって言ってたから」
彼女の大好きな青春だ。
「何で俺まで?」
「一人じゃ恥ずかしいだろ」
彼女の好みにしてはいまいち度胸のほうが足りていないか。
「なあ、リヴァル」
「ん〜?」
「買った後、先に帰っといてくれないか?」
「は?」
「ちょっと行きたいところがあるんだ。近いからついでに」
「付き合おうか? どこにいくんだ?」
それなら帰りものせていってやれると、まあ多少時間がかかっても気にしないという気のいい友人の申し出は、残念ながらあまりうれしくない。
気持ちはとても、うれしいのだが。
「いや、いいよ。ちょっと時間がかかりそうだから」
「ちょ、お前生徒会サボる気か!? っていうか言えないって何しに行くのかなあ? ん〜?」
何を想像しているのか検討もつかないが、あたっていないことだけは確かだ。
「なるべく早く帰るから。あ、会長によろしく言っておいてくれ」
あえて疑問はスルーしてやった。
好きに妄想でも膨らましておけばいい。
「はあ?」
素っ頓狂な声をあげるリヴァルはそれでも律儀にそれを伝えるだろう。
それでいい。
これで、ミレイが後はやってくれるはずだ。
さあ、行こうか。
ふつっと通信は一方的に切れた。
まだ男の高圧的な声が耳に残っている。
あの男の目が嫌いだ。
何も、自分さえも信じない冷たい眼差し。
彼に何があったのかなんて知らないし、知りたくもないけれど。
あんなんで部下がついてくるものかと、一時的に部下という立場に置かれている今思う。
ロロ自身はナンバーズに対して特記すべきような感情を持っていないから、あの男のことは純粋に個人的に大嫌いだ。
失態を報告しなければと考えるだけで、内臓を握りつぶされるような痛みをリアルに感じてたというにも関わらず、隠すこともせずに一秒でも早くと素直に報告したロロに向けられたのは、それだけで人が殺せてしまいそうなきつい眼差しだった。
罵声を浴びせられることは予想に反してなかった。
いや、一度それらしい動きを見せた唇が言葉をうみださずに閉じられたのだ。
失望すらなく。それはつまり最初から期待などされていなかったのだとその時はじめて知った。
けれど、下手を打ったのはロロだ。
まさか。
まさか兄が、ルルーシュが姿を消すだなんて。
なんて、なんて酷い……………………失態。もうその言葉しか言いようがない。
ロロが与えられた任務はルルーシュの監視だ。
記憶を改ざんされた彼の弟になりすまし、彼の行動を監視すること。報告すること。
それは記憶が戻ってしまったことを警戒しての処置であり、記憶が戻らなければそう難しい任務ではなかった。いってしまえば物足りないぐらいつまらない任務だ。
ただ、彼に愛されながら、学校に通って。
けれど兄は―――兄ではない、兄、は、ロロを本物の弟のように扱って。
だからだろう。
裏切りとしか思えないこの仕打ち。
何よりもうらんでしまいそうになる。
本当はしくじった自分を責めるべきであるのに。
ルルーシュの友人であるリヴァルと共に、授業をサボって買い物に行ってしまったと聞いたときはいつものことかとしか思わなかった。
リヴァル一人で帰ってきたとき、何故?と思ったが、深追いはしなかった。
けれど、待てどくらせどルルーシュは帰ってこなくて。
事故だろうか。
それとも本人の意思で?
真っ青になって大騒ぎをはじめたロロに、ミレイ・アッシュフォードが手紙を渡した。
兄からの手紙だ。
曰く。
ちょっと用事ができた。
お前を一人にするのはとても不安なんだが、すぐに帰ってくるから心配せずに学校に通っていて欲しい。
実際はもっと長かったし、なんだかむずがゆくなるような、絶対に血を分けた弟に語るものではない愛の言葉が連ねてあったが。
馬鹿にするな、と。
破いてしまいたかった手紙は、綺麗なままロロの机の上にある。
バキっと音がしてから手元を見て気づいた。
ああまずい。
ボールペンを折ってしまった。
もろい奴だったのかもしれない。
まったく、不良品は困る。
折れてしまってはさすがに使えないので、残っていたインクがもったいないなと貧乏性なことを思いながらゴミ箱に投げ入れた。
予備が見当たらなかったので、腹立ち紛れに机をたたきつけながら立ち上がった。
―――――なんてことだ。
軽くはたいただけだというのに、割れてしまうだなんて。
ああ、これも老朽化していたらしい。
重たい物がのっている時につぶれて大惨事にならなくて本当によかった。
よかったけれど、なんだかとても腹立たしい。
嫌なことは重なるって本当だ。
今しがたもたらされた報告は、考えうる最悪のパターンの中で、最低のものだ。
まさか、まさか逃げられただなんて。
報告内容からおそらく記憶が戻ったわけではないとわかる。
記憶が戻っているのなら、もっと違う手を使うはずだ。
逃げたりなどしない。
そこにいて、記憶が戻っていないふりをしながら日常生活を送るふりだけ見せ付けて、裏切る。
そういう人間だ。
ルルーシュは。
ゼロは。
けれどそれなら何故姿を消したのかわからない。
やはり監視にはもっと人員を割くべきだったか。
甘かった自分にため息を禁じない。
ルルーシュの記憶は皇帝のギアスにより改ざんされている。
ギアスの力の存在を知っていても、その詳細を詳しくは知らないスザクには、その効果が恒久的なものなのか、何があっても揺らがないものなのか確証はない。
だからもしかすると、刺激をあたえれば記憶が戻ってしまうのではないかと恐れて、なるべく環境を保存してみたのだけれど。
今回のようなことがおこってしまったのなら考え直さねばなるまい。
スザクの存在はおそらくゼロに直結する記憶だ。
ルルーシュが皇族であったことにも。
自分が地雷だと正しく理解していたから、ゼロの復活だけはなんとしてでも阻止しなければと思っていたから、自らルルーシュに接触することを避けてきたのだけれど。
これはむしろ、記憶を取り戻そうがなんだろうが、物理的に復活できないように縛ってしまったほうが良かったのではないだろうか。
とにかく今は過去を悔やむより、一刻も早くルルーシュを取り戻すことだ。
ゼロに、奪われる前に。
それからのことも少し考え直そう。
ゼロ。
憎い存在。
誰よりも、許せない。
スザクにとって唯一無二の、大切な女性を奪った。
彼女の尊厳を踏みにじった。
そして何より、大切な友人を、ルルーシュを、壊した。
たくさん嘘をついて。
どれだけ、どれだけ傷つければ気が済むのだろう。
嘘の数は数える気にすらなれない。
ゼロの正体をしって、押さえつけた身体。
とても細くて頼りないそれは、ルルーシュのものなのに。
傷つけたかった。
自分が傷ついたのを、知ってもらいたかったのかもしれない。
だから、犯した。
後悔はない。
ないけれど、空虚だった。
最高の屈辱をと、暴いた身体は。
女、だった。
驚いたけれど、また嘘をつかれていたことが、だまされていたことが、欺かれていたことが、痛くて、痛くて、痛くて、痛くて。
――欲情した。
最低なのは、自分だ。
そんなこと、知ってる。
彼女が欲しいと思った。
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【言い訳】(反転)
……………………なんともいえない話になりました。難産でした(ため息)
短編(え)でこういうネタ取り扱ってはいけないなあと、本気で反省しました。文章が雑になってしまっている自覚はあります。申し訳ありません。え?いつもと変わらない?す〜い〜ま〜せ〜ん〜相変わらず低クオリティでorz
いろいろと気に入らない(特に最後が走ってしまっているのと場面を詰め込みすぎなのが)ので書き直すかもしれません
きょ、今日のところはこれくらいにしといてやる!(黙るといい)テスト終わってどうしても許せなかったら書き直します。あんまり起伏のないシーンなので、読み飛ばしていただけるならそれでもいいかなあとか。
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