光源氏スザク 3/3

注意:あいかわらず紫式部による源氏物語とは根本的に違います。
    ホラー注意。性描写(がぬるいので)注意。あと読み終わった時点で覚えていましたら、
    言い訳の反転をしてみてください。






 今まで動いたことのないバイブが突然震えて。
 一瞬驚いたが、スザクはすぐに事態を把握し唇の端を上げた。何もないところで思い出し笑いのようになって気持ちが悪いだろうなと思いながらも、やめられない。

 

 だってやっとこの時がきたのだ。


 長かった。
 スザクは随分待った。

 

「どうした? なんかやけにたのしそうじゃん」


 ジノが気づいて声をかけてきた。肩に腕を回すのも忘れない。

 


「ルルーシュが自発的に外に出たから」
「何だって? 引きこもりの紫の上が自分から? じゃあ昨日は2人で仲良く買い物
でも行ったわけだ。いいなあ邪魔すればよかった」

 


 ジノはスザクの機嫌の良さを昨日からのものと思ったようだ。予想どおり思い出し笑いの類と。
 それはそうだろう。
 今唐突に気分が浮上するようなことはジノから見ればなかった。

 

 震えたそれは、ルルーシュが家の外にでたら告げるようになっている。

 

「じゃなくて、今日」
「え、じゃあまさか1人で!?」
「おそらくね」


 今までなかったことにジノも驚きを隠せないらしい。
 もっともスザクが驚いたのはバイブそのものであって、ルルーシュの行動ではない。
 そろそろだとは思っていた。
 それが今日だっただけのこと。
 むしろ手をこまねいて待っていたのだから歓喜で心が震える。

 


「どこに行くって?」
「さあ」
「って知らないのかよ。いいのか? 何か危ない目にでも」

 


 スザクよりもよっぽど父親のようだ。


「ルルーシュももう15才だからね。これまで一人で外に出たことがないって方が
異常だよ。ルルーシュの成長に感激して涙でそう」
「そうだよなあ。あれから10年だもんな。スザク頑張ったもんな。引きこもりに
なったけど」
「それを言わないで」

 

 普通の親ならぐさっとくるようなことを躊躇いなく言われて苦笑する。それはその言葉に何の呵責も抱かない自分へだ。
 それどころかこんなに上手く育て上げた自分に拍手してやりたい。


 思った通りルルーシュはとても綺麗に育った。
 願いの通りスザクへの憎悪を抱きながら。
 同時に庇護者であるスザクに依存して――ある意味ルルーシュの世界にはスザクしかいない。依存せずにいられるわけがないのだ。例え本人が意識で否定しても、染み付いた習慣はルルーシュを束縛する。
 手を放すようなことを仄めかすと指先が震えるのを知っていた。
 10年かけて培った時間は決して短くなかったし、大変ではなかったとは言わない。
 けれど、ここまで望んだ通りになったのだ。
 悔いはない。

 


「ついでに変な虫引っ掛けてきたりしてな」
「そんなの許しません」
「スザクもどうなるかと心配してたけど、立派に娘愛な父親になって」
「ルルーシュ男だけどね」

 

 男にしておくのはもったいない美貌だが。
 どちらにしろ虫は全て駆除するつもりなのであまり関係はない。


「でも本当に大丈夫か?どこかで迷子に」
「なるだろうね。まあ帰りに迎えに行くよ。このためにGPS機能があるんだから」

 

 文明の利器は本当に便利だ。


 あまりに過保護なスザクに何も知らないジノが笑う。
 スザクも微笑った。

 ジノは何も思わなかったようだが、おそらくルルーシュが見れば恐慌状態に陥ってもおかしくないくらい綺麗に笑顔だった。綺麗な、ではなく。
 綺麗に、純粋に含みのない。そんなのはスザクじゃないと言って。

 ことがことだけに否定できないなとスザクすら思う。
 けれど実際あるのは嘘偽りなく喜びだけなのだから。
 自分も相当歪んでいるなと思った。

 

 

 まあ今更だが。

 

 


 さあ、壊してあげよう。
 小さく芽吹いた希望を。
 成長しかけたそれを踏み潰されるのは、一体どれほどの憎悪をよぶだろうか。

 何もないときに踏みにじっても、そんなもの楽しくない。
 希望があるから憎悪が生まれるのだ。
 絶望はただ死を招くのみ。
 だからこんなにも待ったのだ。
 ルルーシュが自ら育て上げた希望を、打ち砕くために。
 行動の果ての結果をつきつけるために。

 

 あの濁りのない綺麗な紫が、スザクを見つめるときだけ鮮やかな色に染まり、スザクだけに大きな感情をぶつけてくるのは、どんなに快感か。
 
 想像しただけで心が震える。

 

 

 

 

 

 


 ――――――はっ、はっ、はぁっ。


 あがった呼吸を整えながらも、少しでも遠くへと足を進める。
 息が整ったところでまた走り出し、また速度をおとすということを繰り返していた。

 走り続けられる程体力はない。


 それでも家をでてもうすぐ10時間くらいにはなる。
 どれだけ進んだか、正確にはわからないけれど、大分遠くには来たはずだ。


 既に日は落ちてしまった。
 いつまでも歩き続けることはできない。
 どうにか夜をこす場所を探さなければ。
 季節的には夜に外にいても問題はないが――だから今日を選んだのだ――明日に続かない。

 

 だが、そうは思うのにどうしても足を止めようという気になれなかった。


 実は昼間はもう少しゆっくり進んでいたのだ。自分の実力を考えれば無理をしたほうが命とりになる。だいたいどこかの化け物じゃあるまいし、一日中走り続けるだなんて普通の人間にはどだい無理な話だ。そんなことをすれば確実に今頃倒れてる。

 

 追い立てられるように走りだしたのは日が落ちてから。
 暗くなってくるに伴って、呼ぶ声が、聞こえるようになってきた。

 


 ルルーシュ、と。

 

 後ろを振り返っても誰もいない。
 幻聴だ。
 ショックだった。


 誰の声なのか考えるまでもなく明白で。
 条件反射のように振り返ってしまうのだからもう、病気だ。


 怖くなって走った。
 でも彼は、スザクはルルーシュの中にこそいるのだから……、逃げられるわけがない。

 

 そもそもスザクがこんなところにいるはずないではないか。

 


 ルルーシュはあらゆる手を打った。
 足がつかないよう公共の交通機関は使わなかったし、大通りの監視カメラに引っかかってはまずいと人通りの少ない裏路地を選んだ。
 カードなんてまさか使うはずもなく、人の記憶に残る可能性を最大限排除するため、今日はどこの店にも頼らず、家から持ってきた水と非常食でしのいだ。
 携帯は壊しても置いてきてもよかったのだが、探された時のせめてもの目くらましになればと思い、猫にくくりつけてやった。

 


 だから見つかるはずがない。

 

 たとえいないことに気づいて既に探し始めていたとしても、スザクは今日普通に仕事だったのだから、そんな短時間で見つかるはずがない。


 だから、大丈夫だ。 


 と、理性は告げるが、これは理屈ではないのだ。
 他人に理解してもらえるものでもないだろう。
 身体に染み付いてしまったものは、1日2日でどうにかなるものではない。
 おそらく、これからもずっと…………。

 

 全ては、殺せなかったから。
 殺してしまえばこんなこと、なかったのに。
 やっぱりどうしても、殺せなかったから。

 

 諦めて逃げた時点で覚悟はしていたが、やはり。

 


「きついな」

 

 

 

 

 ――ルルーシュ。


 また、だ。
 しかもこれまでで一番はっきりと。
 

 また一段、暗くなったせいか。
 予想以上に囚われている自分に、泣きたかったし笑いたかった。

 

 

 でももう振り返らない。

 この分だと今日はこのまま歩き続けることになるのかもしれないなとルルーシュは他人事のように思った。

 

 

「ルルーシュ」
「うるさい」

 


 なんてことだ。
 足音まで聞こえてきた。

 

 


 たん、たん、たん、たん。

 

 

「ルルーシュ」


「うるさい黙れ!」

 

 

 

 たったったった。

 

 

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

 

 

 


 だん。

 

 

 


「ルルーシュ」

「ひっ」


 幻聴の一種か、あるいは人が少ないとはいえ全く存在しないわけでもないから、過敏になりすぎてるだけで他人のものだろうと無視をきめこんで歩き続けていたルルーシュは、だから肩を叩かれて、飛び上がるほどに驚いた。

 

 

「どうしたの? 家、反対方向だよ?」

 


 耳元で声がした。


 駄目だ。
 振り返ってはいけない。
 頭の中で警報がなる。

 

「ルルーシュ?」


 けれども手は置かれているだけだというのに、縫い付けられたように足が動かなかった。


 ルルーシュは何かに引っ張られるように、ギリギリと壊れた玩具の音がなりそうな様子で振り返った。

 

「スザク」

 


 振り返って見上げた視線の先、見慣れた柔らかい顔があった。
 どうしようこれも幻覚だろうか。

 この絶望は、言葉では到底言い表しきれない。

 


「うん? 出掛けるのはいいけど、ここは治安が悪いから危険だよ」

 


「何で」
「何が?」

 

 

 わかっているくせにわざと聞き返してくるのだ。
 笑顔の裏の感情が読めない。
 怒っているのだと思う。
 思う、のにどうしてか心の底から笑っているようにも思えて。

 

 これは誰だ。
 得体の知れない化け物か。

 

「何で俺の居場所がわかったんだ」

 

 どうやって探した。

「え? それはもちろん、発信機つけてるから? 君が迷子になったら困るもの。ルルーシュは警察とか行ってくれそうにないしね」

 僕もう心配で心配で。


「はっしん、き」


 聞こえた単語に愕然とした。
 化け物?
 違う。
 これは、これが枢木スザクだ。


「どこ、に」
「秘密。ほら、帰るよ」


 肩を抱かれて、振り払った。


「帰らない!」
「ルルーシュ」

 


 だだをこねる子供を宥める声。


「どこか行きたい所があるの? また明日にしようよ。今日はもう遅いし」

 なんと言われようと、もうあんなところに戻る気はない。
 一大決心をして出てきたのだ。

 連れ戻されるわけには、いかない。


 ポケットの中でナイフを握りしめた――スザクのサバイバルナイフだ。部屋にしまってあったのを餞別がわりにもらってきた。

 

 殺そう。
 ここで殺してしまおう。
 最初からそうすべきだった。

 怖じ気づくからこんなことになる。
 むしろ都合がいい。

 


「ほら」


 伸ばされた手。
 これは鎖だ。

 捕らえられたら終わり。


 足を踏み出して。
 ナイフをとりだし――――。

 銀色が反射した。

 

 

 

 

 

 

 

「危ないなあ」

 

 

 身体がスザクの腕の内にあった――抱き止められるように。スザクの足は動かなかった。
 避けなかった。
 ただルルーシュの腕をひいただけ。

 ルルーシュはバランスを崩してスザクの腕の中に収まった。まるで自分から胸に飛び込んで行くように。


 けれど切り裂いた感触があった。
 事実、顔をあげた先でシャツの肩のところから、赤が広がっていく。


 傷つけた。
 はじめて。

 

 


 でもこんなのじゃ死なないどころか猫にひっかかれたぐらいにしか思われていないのだろう。
 力の抜けた手から、カランと金属音をたててナイフが滑り落ちた。


 スザクの緑がすっと細くなる。

 そして動かないルルーシュを、まるで怪我などしていないかのように抱えあげた。

 

 


「帰るよ。君にはちょっと学んでもらわないといけないみたいだね。二度目はな
いと、言ったね?」

 

 

 暴れようがなにしようが、地に足がつくことはなかった。
 車の中でさえ、抱えられたままだった。

 運転席には白衣の男。
 ああ味方はいないのだと。
 彼は、ロイドはルルーシュに優しかったけれど、所詮はスザクの側の人間なのだ。

 

 優しかったのもルルーシュ個人にではなく、スザクのルルーシュとして。
 きっと他の人もみな、同じだ。


 なんて皮肉なことだろう。
 ルルーシュをルルーシュ個人として見ているのは、世界でスザクただ一人だなんて。

 


「お姫様どうしたの?」
「いえ、ちょっと疲れてしまったみたいです。迷子になって歩き回ったから」

運転席のロイドに向かって軽い口調ではなすスザクに、もう否定する気もおきない。

 


 ただ、1日かけて歩いた距離は、車なら意外と近くて。

 泣きたいのに涙なんか枯れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 


 家に着いてベッドに投げられた。
 スザクがそのまま縫い付けるように覆いかぶさってきた。

「やめろ! なんでこんなっ」

 焦ってルルーシュはなんとか上の男をどかそうと、足を蹴り上げようとするが、上から押さえ込まれては足どころか身動きすらできなかった。
 体格差、位置関係、基礎体力、経験値の全てにおいて劣っているルルーシュがスザクを出し抜くには何より運が必要だったが、スザクはそれをルルーシュに与えてやる気は一切ないようだった。


 今までルルーシュを甘やかすだけ甘やかしてきた男の突然の変貌――いや、目の前の男が元来どうしようもなく冷徹な男だとルルーシュは知っていたはずだ。10年前、この男は何をした?
 5才の子供を攫ってきて事実上軟禁したではないか。
 初めて見た時の凍りつくような視線をどうして忘れてしまったのか。
 結局、飼い慣らされたか。


 スザクが優しいのは自分で戯れに決めた役割を演じている時だけだ。
 あまりに長く続いたから、今まで外に目を向けてこなかったからつい忘れてしまっていた――なんたる失態だ。

 

 


 最初に放棄したのはルルーシュだ。
 

 


 放棄して、殺せば終わったのに。それもできずに逃げた。
 捕まることに怯えながら、本当は。
 ほんとに追いかけられるとは思っていなかった。
 逆らう玩具はいらないのだと思っていた――なんでそういう風に思ったのだろう。


 捕まったらどうなるか、考えなかったわけではないのに明確なヴィジョンを結ばなかったのは何故か。

 本気で追われたらルルーシュが逃げ切れる可能性などないに等しいとわかっていながら。
 それはスザクが。
 彼が。そうだ彼がいつも違う匂いを纏っていたからだ。
 ルルーシュとてそれが男がつけるような類のそれでないことぐらいわかった。
 女の残り香だと。
 スザクがそれをないものとしていたから、ルルーシュも表面上ないものとしていたに過ぎない。

 

 同じ匂いは二度しない。
 人間に対してひどく執着心の薄い男だと――だってルルーシュはただの玩具だったし。
 こんな男に心奪われる女がいっそ哀れだと同情してしまうほどに。

 

 

 

「なんで? なんでなんだスザク。なんで」

 

 ルルーシュは確かに性別的には男かもしれないが、一つの役割でしかないという点で彼が抱いてきた顔も知らない女と同じはずだ。
 去るものは追わない、そんな熱意をもたないはずなのに、どうして、なんの気まぐれで捕まえようと思ったのか。

 しかも身体を重ねるのは、熱を分け合うのは等しく生きているからできることだ。玩具と戯れることじゃない。
 ルルーシュを人間と認めたのか?
 それとも彼は、玩具を抱けるほどに酔狂な人間なのか。

 


 ルルーシュが大切だった?
 まさか。
 いなくちゃ生きていけないよだなんて歯の浮くようなセリフを平然と言ってはいたけれど、それが言葉だけの戯れであることは2人とも理解していたはずだ。

 


「何が?」


 薄暗い声。
 そのくせ常とかわらぬ穏やかな口調は不気味で身体が震える。


「なんで逃がしてくれなかった」


「逃げられると思ってたの?」
「お前は」


 言葉が続かない。
 一度外の空気を吸って汚れてしまったものに興味を見いださないと、思っていた。

 そんなこと、不愉快そうに細められた目を前にしては言えなかった。
 見ていられなくなって唯一動く頭をそらす。

 晒すかたちになってしまった首筋に、生暖かいぬれた感触がしてルルーシュはひくりと喉を動かした。
 柔らかいそれはスザクの舌だ。
 気持ちが悪かったけれど、それより何より噛まれるのではないかとびくびくしていた。

 

「言ったよね? 次はないって」

 頭が少し上に動いて耳に呪いの言葉を吹き入れられる。
 呪いの言葉。
 それは耳から入って脳に染みていって身体を支配する。
 もう押さえつけられなくても指先すら動かせなかった。


「君はそれを覚悟して、僕にナイフを向けたんだよね」


 一度上から体重が消えても逃げられなかった。
 毒されてる。
 犯されてる。


 10年だ。
 10年間ずっとルルーシュを支配してきた男。
 どれだけ甘やかされても信じきることなんか出来なかった。
 言葉の裏にはいつだってそのまた裏があることを隠そうとさえしなかった。
 平気で血の臭いをさせたまま帰ってきた。
 腹の中で飼ってる得体の知れないものはいつだってルルーシュを喰らおうと牙をむいていた。
 怖いとはまた違う。


 本能だ。
 動いたら殺される。
 頭で動けと命じても、身体はいうことを聞いてはくれない。
 それでもルルーシュ最後の矜持でもって、スザクを睨みつけた。

 

「もう二度とこんなことをしようなんて気を起こさないようにしてあげる」


 スザクの手がルルーシュの足を割った。
 閉じることができないよう間にスザクが身体を滑り込ませて、今から自分が何をされようとしているのかぐらいルルーシュにもわかる。
 だけどやはり信じられない。

 

「君がこんなことしなければ、僕はただ優しくしてあげれたのに。君が選んだんだよ」


 まさかスザクがこんな手段に訴えてくるなんて。
 確かに最初に役割を放棄したのはルルーシュだったけれど、スザクまで放棄してしまうだなんて。
 ごっこ遊びをやめるなら、どうして連れ戻されたのだろう。


 下から差し込まれた腕がわき腹をなでて服をまくりあげる。
 冷えた空気が直接肌と接触して神経を過敏にした。

 

「どうしようか?」


 まるでルルーシュの意志を尊重するような言い方だが、その意志を敢えて折ることはあっても、尊重する気など一切ないことは明白である。
 ルルーシュは唇を噛んだ。


 その間にスザクはルルーシュの服を剥いでいく。
 あっという間に下着一枚にさせられて、手慣れすぎていて泣きたくなった。
 言葉は届かない。
 手は上で一つにまとめられている。

 抵抗は…………、おそらくスザクを喜ばせるだけだろう。


 肌を滑っていた手が胸の突起に触れて、ルルーシュの身体がひくりと震えた。

「………っ」


 女ではなくても神経の集まっている場所だ。
 だからそれだけだとスザクを睨みつける。
 スザクはただ観察者として見下ろしてくるだけ。


「ねえルルーシュどうしようか?」


 意図の得ないことを問いかけながら。
 ルルーシュは答えずに別のことを考えていた。
 最後まで抵抗すべきか。
 それとも犬に咬まれたようなものだと、なんでもないことにしてしまうか。
 実際抱かれたからといって、何か変わるとは思えない。これまでだってとても長い間ルルーシュの意志は蹂躙されつづけていた。
 飽きたスザクがそこに一つバリエーションを増やすだけじゃないか。
 大したことじゃない。
 女のように遊ばれたとしても、増えるのは憎しみだけだ。
 それだってもう溢れ出してしまってる。
 増えてもよく違いがわからないに違いない。

 


 だから大したことことなんてない。

 


「ぅあ………」


 きゅっとそのまま摘まれて痛みに声が漏れる。


 長くても数時間だ。


「ルルーシュ可愛い。女の子みたい」


 何日も何年もかかるわけじゃない。
 明日の朝には全て終わってる。
 これまで10年耐えてきたのだ。
 何が変わろうか。

 

 力を入れすぎて血の味がした。
 鉄くさい酸味。
 スザクの指が唇をなぞる。


「ああ切れちゃったね」

 

 なぞっていた指が無理矢理唇を割ってきた。二本。
 大きく開かされて苦しい。


「ん、んん」


 舌をきゅっと引っ張られて絡められ、たまに優しくなでられて腰にずくんと響いた。
 それを快感と理解した瞬間ルルーシュは大きく目を見開いた。


 ありえない。
 これはただの暴力のはずだ。
 ルルーシュの心を折るだけの。
 スザクが己の優位をみせつけるだけのもののはずだ。


 噛んでやろうと思ってももはや遅い。
 ルルーシュの力ではスザクの指に勝てずに、更に開かされて唾液がこぼれた。

 

「次やったらボールギャグくわえさせるよ」


 笑顔で言われた。
 そんなものが手元にあるのだろうか。


 最後にぎゅっと舌を引っ張って指が抜かれた。

「っは、………スザっ!?」

 抗議の声は重ねられた唇に吸い取られた。
 息があがっていたせいで舌の侵入を許してしまう。


「……ぅ………ふぁ」


 くちゅと断続的に、おそらくわざと大きくだされている水音は耳に近くて、犯されていると、思った。
 痛みだけなら、なんてことないと思ったのに。
 男同士で無理のある行為は暴力と同じだと思ったのに。
 スザクは愛撫からはじめて。ルルーシュに快楽を教えるつもりなのだ。

 じんじんとした痺れが下から上ってくる感覚が怖くて身体を捩ろうとすれば、ルルーシュの唾液でぬれた指がそれをルルーシュの胸になすりつけるように動き、思わず身体がかたまった。


「……ぅ………ぁ、め」


 濡れていることで摩擦が軽減され、上をすられるたびに重たい快感がたまっていく。
 感覚が少しずつ強くなっていく気がする。
 神経が脳とじかにつながっているのではないかと思った。
 だってルルーシュの感情はおいてけぼりで、身体だけがはねるのだ。


「ん!? ん、ん――ッ」

 いじられるリズムにあわせて下腹が痙攣するのに気づいたスザクが喉の奥で笑ったように感じた。

 何度か角度をかえられても息継ぎのタイミングがあわず、とりこめない酸素に苦しくなって顔を背ける。
 意外にもすんなり開放してくれたスザクは、こぼれていたらしい涙をなめとった。


「あ……、は、っ」


 何故開放してくれたのかは、すぐに思い知らされることになった。

 

「あ、ああ、ぁ、ひっ」


 声が、今までスザクの口の中に吸い取られてしまっていた声が、こぼれてしまうのだ。


「やっ……やだ、やめ、ろスザクっぁ」
「随分敏感だね」


 一度ふりきれてしまったものを戻すのは難しい。
 声がおさえられない。

 スザクの手を下がっていって、ふるえる腹をゆっくりとなでた。
 腰が逃げを打つが、逃げ場なんて存在しない。


 更に下がって下着の上からやわやわとなで上げられた。


「く……ふぁ」
「ああもう濡れてるね」


 たったあれだけで、直接触られもせず、しかもスザクなんかに与えられた刺激だけで既にたってしまっていることを指摘され、羞恥で顔に血があつまってくるのがわかった。
 脱ごうかといわれ、首を振った――うなずけるわけなんてない。
 ああそう。と簡単に引き下がられて、嫌な予感がした。


「っ、やめっ」


 下着の上から断続的に与えられる刺激をもどかしく思って愕然とした。
 それ以上を、求めているとでもいうのか。

 だが身体は素直だった。
 与えられる快感に貪欲に手を伸ばす。
 腰が動きそうになるのを必死でとめた。
 いうことをきかない身体を、それでもなんとかおさえようとする己の姿がスザクを楽しませるとわかっているのに。

 

「大きくなったね。きついでしょ」

 可哀想にと言って、スザクは下着の隙間からルルーシュの欲をひっぱりだす。
 親切だとか最低のことを嘯きながら。
 それは完全に脱いでしまうよりもずっと卑猥で。
 頭の中が真っ赤にそまるようだった。

「っ、な!? ば、ばか! は、んッ……んん!?」
「だって脱ぎたくないんでしょう?」


 やわらかく刷り上げられて、もう跳ねる腰を抑えることは不可能だった。
 せめてと歯をくいしばることによって、くぐもった声がもれる。
 けれどどれだけもつかはただ時間の問題だった。
 濡れ始めている先端をスザクの指がすった。


「ん――――っ」


 きゅっと爪をたてられて。
 痛みの中、頭の中が真っ白になった。
 強い刺激の前になす術もなく、簡単にいかされてしまった――屈辱で頭の中がやききれそうだ。


「いっぱいでたね」


 白濁を手で受け止めたスザクがそれを指にからめながら見せ付けて笑う。
 ルルーシュが放心している間に、下着をはぎとられてしまったので、脱ぐかとわざわざ聞かれたのは、あれはやはりただの嫌がらせだったのだ。


「食べる?」


 重力にしたがって、たらっと頬にたれてきた。
 自分の中にあったそれは、とにかく気持ちが悪くて、ルルーシュは呆然としながらも首をふった。
 みじめだった。
 恥ずかしくて死んでしまいそうというよりは。死んでしまいたかった。

 

「ああ、そうそう。だから本当は選ばせてあげようと思ってたんだけど」

 どうしようかと最初の質問に戻る。
 足をもたれ、腰から折り曲げられて、赤ん坊がオムツをかえるような体勢をとらされた。
 みせつけるように、スザクの濡れた指が、奥の窄まりをつっとなでる。

 

「ここにね、僕のを入れようと思うと、慣らしておかないと切れちゃうからね。潤滑剤がいるんだよ」


 痛いの、嫌だろうと。

 ならやめろ、と。
 叫んでもそよ風のBGMぐらいにしか聞こえないらしい。

 

「催淫剤入ったのとか、ぼーっとするやつとか、まあ何もないやつもあるし、アルコールも考えたんだけど。どうする? どれがいい?」
「っざけ」
「気持ちよくなれる薬入ってたほうが負担は少ないかなあとか、思ったんだけど最初に薬の感覚覚えちゃうのもよくないしね」

 

 ひだをひらくように、わざとらしく何度も指がすべる。
 いつのまにか両手とも外されていた手で、スザクの肩を押すが力が入らない。
 つぷっと指が浅くもぐった。


「まあ今日のところはこれでいいかなあ」


 すぐに抜かれるが、また今度は深く突きいれられて。


「あ、うわ、あ、あ、やめ、やめろスザク!!!?」


 白濁の滑りを借りたそれはなんなくもぐっていった。
 ぐるりと塗りつけるかのように動かされる。

 蹴った足は空気をゆらすだけ。
 中で指がくいとまげられた。

「ひ……っ」


 違和感のみで痛みはないけれど、身体の内をえぐられて息がつまった。
 指は爪をたてるだけで簡単にルルーシュを傷つけるだろう。恐ろしくて仕方なかった。
 指はルルーシュの中を我が物顔で蹂躙する。
 まわして、折り曲げられて、抜かれて、またいれられて。
 指が動くごとに、ルルーシュは悲鳴をあげるしかない。


「余裕そうだね。もう一本いこうか」
「む……り、抜け」


 顔そむけたルルーシュにはベッドサイドのチェストしか視界に入ってこなかったが、増した圧迫感に、宣言どおり指がふやされたことがわかった。
 慣らされたせいか痛みはそれほどでもなかった。
 けれど未知の感覚に腰が引ける。
 もちろんそれを許してくれるはずもなく、引き戻されて、そのことで指がさらに奥まで達した。


「っ……ぁ…………ざ、く、すざくもう! やめっこわい」
「だってよく慣らしとかないと痛いよ」


 仕方がないなと、ぬかれていく指にそっと息をはいた。
 だが、それはすぐにとまってくるりとまわされた。


「な、なに!?」


 その瞬間、走ったのは確かに快感。
 けれど知っているどれでもない。
 直接快感という文字がシグナルとして脳に送り込まれたような。


「ああここだね」


 ふわりとスザクが笑った。
 身体に電流が走った。

「あ、やあああぁあ」
「ここ、前立腺っていうの」


 聞いたことはある。
 だが。
 実際にはそんなに快感を拾えるものではないはずだと。
 目を白黒させるルルーシュに、スザクがうっそり笑った。
 何をと口にする前に同じ刺激に言葉が霧散した。


「う……そ、だ、ぁ、――――ッ」
「よさそうだね。素質あるよルルーシュ。でも3本ぐらいは入るようにしときたいかな。血が見たいわけじゃないし」

 もう一本、とすべりこんだ指に今度こそ信じられない。
 こんなのもう自分の身体じゃない。


 嘘だ。
 認められない。
 認められるものか。
 簡単に男の指をくわえ込んで、痛みよりも快感を拾うだなんて。


 3本の指がそれぞれ好き勝手にルルーシュの中で動く。
 先ほどのポイントは重点的に攻められて、声が、断続的にこぼれ続けた。

 

「もう、いいかな」


 そんな言葉と共に一度完全に引き抜かれて。
 若干かえってきた意識は、むしろとんでいたままだったほうが幸せだったかもしれない。

 押し付けられた熱に喉がひきつった。
 思わず視線をやって、指とは比較にならない質量に無理だと警報がなる。


「ま、まて、スザク、まッ――――――」

 

 制止の声なんか最後まで言わせてもらえなかった。
 身体が2つに引き裂かれるように苦痛に身体がのけぞった。
 目をぎゅっと瞑れば暗闇の中、与えられる苦痛だけが明確に浮かび上がった。
 血がみたいわけじゃないと言ったとおり、無理に裂く気はないようだが、上から楔を穿つように確実に少しずつ、ずくずくと入ってくる。
 ズッとまた少し。入った。
 ゆっくりされたほうが、何をされているかまざまざと思い知らされて、よっぽど苦痛だ。
 どうせなら一気に貫いてしまえばいいのに。
 そうすれば痛みに全てを投げ捨ててしまうことができる。

 身体を開かされる痛みに、内臓をおかされる恐怖に、つかんだままだった肩に爪をたてた。

 

「――っ」

 はじめてスザクが動きをとめた。
 右手に、ぬるりとした感触。
 この臭いを、知っている。


 血だ。


 嫌な感触に、指をつたう血の生ぬるさに、身体が金縛りにあったように動かなくなる。
 視線が釘付けになり、喉が鳴る。
 指がふるえる。
 既に扱いきれてない現状とあいまって、パニックにおちいりかけているルルーシュに気づいているはずのスザクは――。


「あぁあ!」


 ずん、と最後まで貫いた。

 真っ青になっているルルーシュの血塗れた手と反対の手をとった。
 指を絡めるように握る。

「ルルーシュがやったんだろ。うれしくないの?」


 ルルーシュが、ナイフで。

 肌を切り裂いた肩。
 そんなに深くないと治療もろくにせず放っておいたのはスザクだが、ルルーシュが爪をたてたことによって傷が開いたのだ。


「いいよ? えぐっても。噛み付いても」

 

 ふるふると首を横にふれば、むしろスザクは不満そうに鼻をならした。
 痛みとショックで力を失っている前にスザクの手が伸びる。
 それでも未だくすぶっている火種をあおるようにやわやわと刺激されると、簡単に熱をもちはじめた。

 

「そのうち後ろに挿れられただけでいっちゃうようにしてあげるよ」


 不吉な言葉に恐怖した身体が無意識に内にある彼を締め付けてしまった。
 
「はっ」

 若干上がった息遣いと共に、中の熱がかさを増した。
 スザクはゆるゆると腰を動かして、ルルーシュが痛みに身体を引きつらせるほどではないことを確認してから――それはもしかしたら他のことで頭がいっぱいになってしまって、感覚をうまく終えてないのかもしれないが、苦痛が少ないのはいいことだ――ぎりぎりまで抜いて、つきたてた。

 

「っひ………あ、やぁああ」


 腰をつかんで、前立腺を狙い軽くゆすってやればびくびくと身体が跳ねた。
 男の熱をくわえ込まされ送られてくる刺激は、スザクが動くたびに大きくふくらんでいく。
 前が熱をもつのは、おそらくスザクに断続的に刺激されているからだけではないのだろう。
 でももう何も考えられなかった。


 徐々に激しくなって律動にクチュクチュと響く卑猥な水音も大きくなっていく。
 揺さぶられ、犯されて。
 腹の中、内臓をぐちゃぐちゃにかきまわされているようで。


「あぁーっ……あっ……やっ、こわ、れる」
「こわれちゃいなよ」

 こわしたいのかもしれない。
 それでもいいかなと、きゅっと熱を握られるのと同時に深く突き入れられて、瞬間真っ白になった視界の隅で思った。
 熱を吐き出して、中のスザクを強く締め付ける。


「っ」

 その刺激に息をつめたスザクも、ルルーシュの体内に白濁を注ぎ込んだ。

 

 

 


 果てたそのままくたりと滑り落ちていく腕が意識の喪失を示していた。
 力が抜けてぐったりした身体を、スザクは抱き起こす。
 
 足りない。
 こんなのでは全然足りない。

 

 だって10年も待ったのだ。
 一度枷を外してしまえばとまらないことなどわかりきっていたことだ。
 だから良心の呵責など1ミリたりとも持たずに、スザクは軽くルルーシュの頬をたたいた。


 意識がないままやれないこともないが、それはあとでもできる。

 

 

 


 もうちょっと、付き合ってもらおう。

 

 

 

 

 もうちょっと。
 スザクが死ぬ時ぐらいまで。
 この10年前に拾ってきた子供は、きっとそれまで存分にスザクを楽しませてくれることだろう。
 初めてスザクを傷つけたことによって今日また芽生えた希望と、いつもとは全く違った蹂躙によって生まれた新たな憎悪と共に。
 大丈夫、おそらくそんなにはかからない。
 その時は――その時がいつかはわからないけれど――ルルーシュに殺されてやりたいなと思う。

 ルルーシュの、あの何よりきれいな宝石のような瞳に、スザク以外の誰も知らない暗い光を宿してスザクだけを映したそれを見ながらいけたら、どんなに幸せだろう。





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【言い訳】(反転)
ラブラブよりもこのまま突っ走ったほうがいいという意見を数点もらったので、本当にこれでいいのかドキドキしながら最終話でございました。
最終的に源氏物語ってなんだっけという、原点にまで戻って考えてしまいました(基本手遅れです)
性描写は、ぬるいというかテンポが悪くて読みにくくて全部消してやりたい衝動にかられてます。。。。。「えぐっていいよ?」と行為の最中に言わせたいがためにこのシーンをいれこんだのですが、朝チュンで心理描写しっかり書いたほうが私の傷が浅かった気もしますorz
ではではこんなところまで読んでくださってありがとうございました。m(_ _)m
以下の「おまけ」に、光源氏って↑こんなんじゃないだろ。アンケートとってまでなんてもの書いてるんだ!!と騒ぎ立てた上で、こんなんでもよかったんじゃ?と書き直していたもう一つの案の一部をのせておきます。ただし、あっちも何か違う!と挫折した代物でございますので、期待はしないようお願いします


「おまけ」