光源氏スザク 1/3

注意:紫式部による源氏物語とは根本的に違います。すいません色々間違えました。
    原作を愛している人は読まないようにくれぐれもお願いいたします。






 どうしてそんな気になったのか。
 自分でもよくわからない。
 だがおそらくめったに起こさない気紛れというよりは、そのゆかりある土地は何かで気を紛らわせてしまわなければよからぬことをしでかしてしまいそうな魔力を持っていたから、ある種の自己防衛だったのだろうと振り返って思う。


 そこはかつて日本と呼ばれた。
 今は11という数字がふられている。
 エリア11と。
 住む人間の名も日本人からイレブンにかわった。

 寂しいことだとは思わない。 
 既に捨て去った感情。
 既に捨て去った故郷だ。


 スザクはイレブンとは呼ばれない。
 支配者の名、ブリタニア人と。
 否。
 嘘だ。
 名誉と種族も地域も表さない名詞で呼ばれる。
 日本人のくせに占領国に魂を売り払った裏切り者の名で。

 

 自分で選んだことだ。
 悔いはない。
 納得してる。
 けれど、同じ民族の人間を前にして、もはや何の関係もないと言い切ってしまえるほど、スザクは未だ思いを昇華しきれてはいなかった。
 甘いというよりは、おろかなことなのだと自分でも重々承知している。

 だが理解と感情は別物だと、誰かも言っていた。
 だからいいというわけではもちろんなく、こんなものは早く捨て去ってしまわなければ呑まれてしまうのはスザクのほうだ。


 わかってる。
 わかってる。
 わかってる。

 なのにうっとうしく付きまとう。

 たとえその名で呼ばれることがなくとも、スザクはおそらくもうどうしようもなく日本人だ。
 誰が認めなくても。
 自身ですら認めることを許せなくても。

 テロの多発するエリア11への遠征を命じられたのは踏み絵だろうかとくだらないことを考えた。
 任務は制圧――母国を。

 日本人を打つことに何も感じないとは言わない。 
 だがそれは日本人以外と同じレベルの感情でしかない。
 打つのは、罪人だ。
 秩序を乱すもの。
 その思想まで否定する気はないが、できもしないことを主張し、日本人をうたいながら日本人を殺す者達。
 これ以上の破壊行為を許してはならない。

 だから、打つのだ。

 

 

 









 

 圧倒的な戦力差。
 そもそも開戦1ヶ月で負けた国だ。
 国の力をあげてもそうなのだから、テロリストごときの武力で勝てるわけがない。

 市街戦は好きじゃない。
 罪ない人が、戦いを望まぬ者が死ぬ。
 スザクはなるべく気をつけて戦うが、捨て身の相手がそんなことを気にかけることはないが、エリア11を植民地としか思っていないブリタニアの軍人にそれを求めることは難しい。
 スザクにしても気にかけたからといって、被害を0にして戦えるかと言われたら、………これ以上の被害を最大限抑えるために一刻も早く終わらせると答えになっていない答えをかえさざるを得ない。

 

 

 

 

 殺伐とした風景の中――それは既にスザクの故郷だった名残すら感じられない――ふいに、目に付いたものがあった。


 愛機から瓦礫の上におりたつ。
 何をしているんだろうと、自分をあざ笑った。
 こんなことをして何になるんだろうと。

 

 珍しいものを見つけてしまったからといって、自分の行動は正気とは思えなかった。

 

 

 

 








 5才くらいだろうか。
 黒髪の少年。
 母親の姿は見当たらなかった。
 顔立ちからして意外なことにブリタニア人だ。
 エリア11は制圧が完了したばかり。ブリタニア人はまだほとんど移住してきてはいない。
 そんな中、しかも戦闘地域にだ。

 

 

 瓦礫の中、1人佇む少年は、ナイトメアからおりてきたスザクをにらみつけてきた。
 大きなアメジストの瞳。
 憎しみに彩られたそれを、スザクはきれいだと思った。


 きっと睨みつけてきた子供の手に銃が握られていてもスザクは別段驚かなかったし、焦ったりもしなかった。
 これだけ治安が悪いのだ。
 いくら規制をしても銃は流通するし、流通すれば人は持つ。
 子供が簡単に手に入れられるものではないとしても、死体はそこら中に転がっているのだ。
 漁れば一つ二つ簡単に手には入るだろう。


 その銃口が例えスザクに向いていたとしても、子供に何が出来る?
 震える銃口はスザクを捉えない。
 ただ向いているだけだ。

 たかが子供。
 なめているのか問われればなめているのだろう。
 だが事実だ。
 ただの子供。
 争いのために生きているわけではなく、愛されて生きる、ただの、子供。

 なんの覚悟も持たぬくせに、衝動だけで愚かしくも銃を握る。


 ならばその引き金を弾く前に弾き飛ばしてしまうことなど造作もない。


 だからスザクはあえてゆっくりと近づいていった。
 少年が引き金を弾けるように。

 弾くだろうか。
 憎しみにまかせて愚かな選択をするだろうか。
 それとも屈する絶望を選ぶだろうか。


 たてついてくる身の程知らずの馬鹿は鬱陶しい。
 世間を知らず、世界を知らず、見ようともせずに自分の主張だけを繰り返すようなくだらない人間に興味はない。


 だが、屈する人間に、用はない。


 子供とは思えないような激しい憎しみをたたえた鮮やかな瞳が綺麗だと思った。
 それがスザクだけを映しているのにゾクゾクした。
 ずっとその瞳がスザクだけを映し続ければいいのに――願望。


 指先が動く。
 スザクの足が地面を蹴った。

 欲しいと思った――切望。

 

 

 ――――パぁン


 鳴り響く音はどこか間抜けだ。

 反動で後ろに倒れる身体が地面に着く前に支え、首筋に手刀を叩き込んだ。

 もちろん銃弾がスザクをえぐることはない。
 斜め上に放たれたそれの行方に興味などない。
 ただ空気をさいたそれはもはやただのゴミに等しいのだから。

 

 崩れ落ちた小さな身体を何のためらいもなく抱えあげた。
 何故なら欲しいと思ったから。
 理由なんてそれで十分ではないか。

 


 そういえば。
 声を聞いていない。
 瞳は憎悪をたたえ、顔は苦痛にゆがんでいたが、子供は言葉をぶつけてくることはなかった。
 何を思ってなのかはわからない。
 恐怖で声がでなかったのかもしれないが、確かではない。
 あるいは言葉など届かないと知っていたのかもしれない。

 それはある意味で正しい認識だ。
 声をだしてる暇があれば殺したほうがいい。
 それが、戦場だ。

 

 

 

 可哀想にと思う。
 スザクとて人の子だ。
 同情ぐらいする。


 可哀想に。
 本当に可哀想に。

 

 この子は親を失ったのだ。


 そこに根拠など必要ない。
 スザクが決めた、事実なのだから。
 親を失った子供は保護しなければならない。
 連れて帰る建て前としては上等だ。

 

 子供の身体は軽い。
 荷物とも思えないほどに。

 

 

「僕のものだ」

 


 声にだしてみると真実のような気がして気分がよかった。
 否。
 真実だ。
 事実など知ったものか。


 さらりと黒髪が重力に従ってながれる。
 泥や血で汚れているけれど、やはり整った顔立ちは極上のものだ。
 きれいに洗ってやれば置物としても楽しめるだろう。
 とはいえスザクが興味があるのは、血で泥で汚れた、埋もれた美貌のほうだったが。
 歪んでいるほうがいい。
 そのほうが……………なんだろう。うまい言葉がみつからない。

 


 弾いた銃が視界に入ってきたのでしばし考えた。
 置いていったところで何か支障があるわけではないが。

 一緒に持っていってやったほうがおもしろいものが見れるかもしれない。
 土産だ。
 あるいは記念か。


 だって必要だろう。
 武器が。
 スザクを殺すために。


 憎しみを忘れぬように。

 

 

 

 

 




















「お? スザク! おかえり〜」

 本国に戻ったスザクを迎えたのはあえて説明するまでもない。
 ナイトオブラウンズとしての仲間というのだろうか、同僚のジノ・ヴァインベルグだ。
 後ろにアーニャ・アームストレイムの姿もある。
 彼女はちらりとスザクに視線をやると、特に何も言わずに興味を失ったように携帯へ視線をおとした。


 連れてきた子供を部屋に置いて、更に面倒なことは先にと書類まで提出していたら遅くなってしまったのが不満だったらしい――詰め所に顔をださなければならないということでもなかったはずだが、彼はいつも真っ先に顔をだす。そして書類を後回しにして不評を買うのだ。

 だからといって出迎えてくれなくてもいいと思うのだが。
 一応詰め所に行こうとしている途中、ジノが走りよってきて、更にくるりと180度方向を変えたということはそういうことなんだろう。
 アーニャのほうはどう見ても乗り気に見えないので引っ張られてきたか。

 

「ほらアーニャも」
「………おかえり」

 

「スザクは!」
「ただいま」

 

 ラウンズってなんだっけなっとちょっと思った。
 ただたんにジノの性格だということはわかっているけれど。
 若干疲れる。

 アーニャは鬱陶しいとか思わないんだろうか。
 反応が薄く興味がなさそうな態度のわりによく一緒に行動しているが。
 それとも逆らうほうが疲れるから流されているだけなのか。
 ジノは濁流みたいだからわからないこともない。


「そういえばスザク」

 あと少しで詰め所に着くという所でジノがふと思い出したように切り出した。


「子供を連れて帰ってきたって?」


 思いがけなかった話題に思わず足がとまった。

 隠せるとは思ってなかったし、あえて隠そうとも思ってはいなかった。


「スザク?」
「いや。情報がはやいな」


 だが早すぎる。
 動揺してしまったことに軽く舌打ちして歩き出す。
 子供を抱えて歩いたのなんて自分の部屋までのそう遠くない距離だ。
 誰かと会った記憶はなかったが、すれ違った誰かがすでに言いふらしたというのか。
 人の口に戸はたてられないとは言うけれども、この早さはいっそくだらない。


「子供? スザクの?」
「え、マジ!? 五才くらいって聞いたけどつまりスザクが12才の時の子供ってことか! すっげえな」


 誰も肯定などしていないのだが。
 馬鹿か。馬鹿なのか。
 それともジノの中のスザクでそれは十分あり得ることなのか。


「そんなわけないだろ」
「えぇ〜」

 冷たく否定すれば、……なんで残念そうなんだろう。


「でもなんだって子供なんか連れ帰ってきたんだ?」

 ジノがすっと真面目な顔になった。
 この切り替えの早さと唐突さはもしかしてわざとやっているのだろうかと最初は考えたものだ。
 慣れていなければつい翻弄されてしまう。
 余計疲れるとかならまだいい。
 ぽろりと本音がこぼれてしまうことがあるから注意が必要なのだ。

 もっとも。
 そんなものぐらいではがれるような仮面ならばつける意味などないだろうが。


 だからスザクは表情も変えずにこう言うことができるのだ。


「ブリタニア人だった」
「イレブンじゃなかったのか!? え、でもあそこってまだ移住はほとんど」
「保護者の姿も見当たらなかったし、戦場にいて危なかったから保護してきた」
「でも保護ってことは、じゃあこれからどうするんだ?」
「一応探してみる」


 探してみて、見つからなければそれでいい。

 

 もし見つかってしまったら事実を捻じ曲げなければならないだろう。
 相手に伝わっている内容と正反対のことを考える。

「見つからなかったら?」

 見つからなかったら。
 愚問だ。
 もともとそのために連れ帰ってきたのだから。
 スザクはくっと唇の端をあげた。
 ジノは一歩前にいる。アーニャは一歩後ろにいる。
 だからその表情を見たものはいなかった。
 もしいたら、薄暗い微笑みに、おそらく寒気を覚えたはずだ。


「責任はとるよ」
「スザクが育てるの?」

 アーニャの感情の見えない言葉は確認だった。
 もちろんだとうなずく。
 出来るのかと聞かれるが、誰しも親になる可能性はあるのだ。
 出来る出来ないではなく、これはするしないの問題だろう。


「でもさあ、スザク。お前危ないからって全員引き取ってどうするんだよ」
「さすがにそんなことはしないよ」
「でも今回」
「最初で最後だ。僕の手は二本しかないからね」

 それに、見た瞬間にわかったのだ。
 この子供以上にスザクの心ひく存在はあらわれることはないと。


「その甘さは命取りになるぞ」


 ジノの言うことはもっともだ。
 だがこれが、甘さか?


「肝に銘じとくよ」
「……やっぱりスザクの子なんじゃ」
「なんでそうなるかな」

 変だと騒ぎ立てる彼を適当にあしらいながら、ようやくついた詰め所の扉をあける――やけに長く感じた。


「こういうのなんていうんだっけ」

 ぽつりとアーニャがつぶやいた。
 こういうのって何をさしているんだろう。
 首をかしげたスザクの横で、俺知ってる!とジノが手をあげた。

 間違ってる。
 何を言うのか予想もつかないが、それはおそらく間違ってる。


「ムラサキノウエケイカクって言うんだって」

 ロイドが言ってた。

 


 言いたいことは、山ほどあった。
 ムラサキ ノウエケイ カクではなくムラサキ ノ ウエ ケイカクだとか。
 やっぱり元凶はロイドなのか、とか。
 どこからそんな単語ひっぱりだしてきたんだとか。


 あとそれから。
 俺はロリコンじゃないだとか。

 スザクの知識も偏っていたが、残念ながらそれにつっこめるほど日本の古典に親しんでいるものはいなかった。

 

 

 

 

 



















 大きな紫の目はアーモンド型につりあがりスザクを睨みつける。

 スザクのベッドの上で、状況もわからないだろう子供がまずとった態度がそれだ。
 自分の一秒先もわからない状況でいい度胸だ。
 五歳の子供に睨みつけられたところで怖くなんかないけれど、あんまりに一生懸命だったから頭をなでてやりたくなった。
 きっと盛大に嫌そうな顔をしてくれるに違いない。
 そしてスザクの手を振り払いながら言ってくれるだろう。
「触るな!」
 と。


 小さな生き物が頑張って生きているのを見るのは楽しい。
 新鮮というのかもしれない。
 意地をはって強がって、拒絶して。
 でもお望み通り放り出してやったら、弱肉強食のこの国で、甘えることすらできないこの子供は簡単に死ぬだろう。


 それはもったいない。
 そう思ったからつれて帰ってきたのだ。
 何より顔がタイプだ。
 性別が男なのが残念なほど綺麗な顔立ちをしている。
 将来ほっといても女が寄ってくるような美人に育つだろう。 

 今から楽しみだ。
 けれど誰が女になんかくれてやるものか。

 せっかくスザクが見つけたのだ。
 スザクが拾ってきた。
 世界に捨てられたこの可哀想な子供を。
 誰にもやる気はない。


 もう、スザクのものだ。
 そうだ、スザクのものだ。

 

 自分好みに育て上げ、傍に置いておく。
 それはなんと心踊る想像か。


 なついて欲しいわけじゃない。
 きつく睨みつけてくるアメジストが見れなくなるのはとても惜しい。
 だから依存してもらおう。
 スザクがいなければ生きていけないようになってもらおう。
 嫌いな人間に依存してしまうのはどんな気持ちだろう。
 捨てられることを恐れながら、すがりつけない恐怖はどれほどのものだろう。


 ぐだぐだに甘やかして。
 でもスザクへの、奪ったものへの憎しみを忘れないように。

 

 


 そんなスザクの心のうちなど知らぬ子供はただ黙ってスザクを睨みつける。
 名前はと聞いたけれど、口をひらく気はないようだ。
 上等だ。
 こうでなくてはおもしろくない。

 

「名前は?」

 もう一度聞いた。

 そっと首筋に手をあてる。
 まわすわけでもつかむわけでもなく、ただ当てただけ。
 絞めてやろうなんて微塵も思っていない。
 笑顔までつくってやった。
 それでも子供の身体はびくりと震えた。
 幼い肌はなめらかでさわり心地がいい。

 

「別に言いたくないなら言わなくてもいいんだけど。名前なんて誰のことなのかわかればいいわけだし。でも君が言わないなら僕が考えなくちゃならないだろ? それはめんどくさいし、こだわりがあるなら早く言ったほうがいいよ? 名前を教えるのなんてそうたいしたことじゃないと思うけどね。名前じゃ殺せないわけだし」


 少なくともスザクには黒魔術なんて使えない。

「…………候補は」

 はじめて搾り出された声は、目覚めたばかりのせいかかすれていた。


「タマとかポチとかクロとかかなあ」

 自慢じゃないがセンスはない。
 原因の半分は、目の前の彼がネコみたいな目をしているから。

「ルルーシュ」

「ルルーシュ?」
「名前」


 ルルーシュ。
 紫の目に、気丈に引き結ばれた口元。
 頼りない小さな手に、白い肌。
 子供特有の高い声は、しかし高すぎることもなく静かに空気をふるわせる。
 名前は、ルルーシュ。


「ルルーシュ」
「…………………………なんだ」
「僕はスザクっていうんだ。これからよろしくね?」


 は?
 と状況がわかっていないルルーシュは目を見開いたけれど――ああ、大きな瞳がおちてしまう。

 詳しくは説明しない。
 そのうち適当に都合のいいように理解するだろう。

 

 まずは名前を呼ばせるところからはじめようか。
 スザクの思考はすでに己の楽しみにのみ向けられていた。






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【言い訳】(反転)
え、あれ?光源氏って 覗き(今なら犯罪)→一目惚れ(ロリコン・マザコン)→引き取る(強引)→紫の上計画(夢)→同時進行浮気男 って話だと思っ…………すいませんでした(土下座)
源氏物語大好きです。一目惚れ+拉致編でした。