鬱血 おまけ


 唇をはなすと、もう一度アスランの身体を見て、キラはうっそりと笑みを刷いた。


「とってもキレイ。うん、キレイに、あと、ついたね」

 すっと細められたその目は、危険だ。
 本能的に一歩あとずさる。
 
 怒っているのはアスランのはずだったのに、一瞬で気圧される。
 すぐに振り払うように首をふってキラをにらんだが、時はすでに遅かった。
 隙をつき、キラはアスランの腕を引っ張ってベッドに転がすと手早くタオルを剥ぎ取って、アスランが気づいた時には足の間に割り込まれ、組み敷かれた状態だった。

 その指が愛しそうに昨夜自分でつけた痕を、ひとつひとつ確かめるように触れていく。

  
「何がしたいんだ、お前は」
「君が僕のものだっていう証拠。たっくさんつけとかないと君はすぐに忘れてしまうから」
「そんなことしなくても、俺は……」
「うん。だろうね」


 わかってるよと言いながら、でもつけとかないとと言う彼の意図がわからない。

 いや……。

 あるいは、意図などないか。



「結局、ただつけたかっただけなんだろ」
「さあ。でも、そうかもね。つけなきゃって思ったんだ」

「わけわかんないよ」
「そう? 可愛い男心じゃない」
「は、言ってろ」

 

 更に唇を寄せてきたキラにアスランはため息をついた。
 今何を言っても、聞く気はないのだろう。
 この上まだしるしとやらをつけようとしている彼は。

 だが、このまま爛れた一日を送るわけにもいかない。
 今日は平日で、学校があって。
 その学校に行こうと決めたのは他でもない自分たちなのだから、こんなことで休むわけにはいかない。


「……ぁ」

 ついついあげてしまいそうになったこ声をあわてて抑え、圧し掛かるキラを押しのけようと腕をつっぱった。

「今日はもうどうしようもないから、てかお前謝る気もないんだろうけど。私服だからまだいいが、ハイネックなんて暑くて仕方ないんだぞ。あと消えるまでお前が飯作ること。この上火の前に立つなんてやってられない。じゃなかったら本気でしばらくお前寝室入れないから」

 早口で言いたいことだけ、けれど静かに言い切った香に、キラが顔を歪めた。

「ねえ、……実は結構怒ってる?」

 執着が、うれしいと思ってる自分を知っているから、キラだけを責められない。
 だがどうにも腹の虫がおさまらないということで、声を一切あらげることなく淡々と怒るという芸当を選び取ったのでわかりずらかったのか、今更のことをキラがおそるおそる聞いてきた。

「だから最初からそう言ってるだろ」
「……言ってません」
「返事は?」

「いいよ、やる。あ、でも消えたらまたつけるから」

 
 どうしてだろう。
 同じ言葉を使っているはずなのに、途方もなく高い言葉の壁を感じた。





「じゃあさっさと作ってくれ。遅刻はごめんだからな」

 アスランは口付けをもとめてきたキラの唇を手のひらで押さえて、非情にも言い切った。


 心の壁を感じたとは他でもないキラの言葉だ。





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