4.女装スザ子と男装ルルーシュ
説明のところにギャクと書いたとおりです。はちゃめちゃにしようと最初から思ってたので、予定どおりです。………………すいません許してください。
はからずも、2人は同時にはっきりとムリ、と思った。
枢木スザク17才。
性別は男。
誰がなんと言おうと男です。
家に帰るとお客様がいました。
「ただいま帰りましたあ」
なんとなく間延び気味に声が暗くなってしまうのにはわけがある。
スザクの通うアッシュフォード学園にはあまり誉められたことではない慣習、というか原因はたった一人なのだが、学校規模で迷惑を撒き散らす人間が存在する。
その名もミレイ・アッシュフォード。
何が不吉ってもう学園の名前がついている時点で不吉すぎる。
これが佐藤だとか鈴木だとか田中だとか一般的な名前だったら特に気にすることなどないだろうが、アッシュフォードだ。
名門貴族アッシュフォードなのだ。
その繋がりは疑うほうがもはや馬鹿らしい。
例によって例の如く、彼女は学園理事長の孫だった。
とくれば私立であるこの学校で一線を隔した存在となるのは至極当然の結果であり、孫娘がものすごい我が儘で女王様でも、人生舐めてるような不良少女でも周りの人間は受け入れなければいけないのだ――実際そんなに横暴な学校ではないし、たかが孫娘に逆らったからといって退学になるようなことはないのだが、気持ちの問題だ。
とはいえ孫娘はどちらにもあてはまらなかった。
が、ある意味横暴ではあった。
生徒会長に就任し、うちだす企画は全部趣味。
基準は楽しめるか否かのお祭り人間。
開催日時は全て不明の突発事項。暇だと言い出したら赤信号だ。
それでも基本気のいい彼女は皆から好かれているし、なんだかんだで全校生徒ともども企画に全力で参加してしまうのだからミレイだけに責任を押し付けるわけにはいかない。さらに言えばその会長を選んだのだって、公正な選挙だった。
今日も今日とて盛大に開催された男女逆転祭りをスザクだって力一杯楽しんだ。
こういったのはやるからには楽しんでしまわなければ損なので、めいいっぱい力を入れた。
メイクだって下地にはじまりつけまつげの上からマスカラを塗った。
ウィッグは会長が生徒会役員分は特注したものだ。
もともと天然パーマのスザクにあわせて、くるくるとふらっと巻かれたそれが腰まで。
男の夢だとか言われてどこから調達したのかセーラー服。
毛はガムテープで教われた……リヴァルがあまりにも悲惨だったのでシャーリーに頼んで電動のものを借りた。まあでも思いを寄せるミレイに襲ってもらえてあれはあれで役得なんじゃないだろうか。
やぼったいハイソックスがいいだとか彼女の親父趣味はいつものことだ。
それだけしてメイクに清楚さが足りないと駄目出しをくらったりしたが、とにかくどこからどう見ても女の子になったスザクは、男性教諭に迫ってドン引きされるくらいには今日1日をめいいっぱい楽しんだ。
だがそれは学校内というある種特殊な空間のみにおける話であり。
家に帰るまでが祭りです宣言をされて制服を取り上げられた時の絶望は言葉にならなかった。
はっきりきっぱり家に帰りたくなかった。
それは非難の視線を浴びるからではない。
むしろ反対だ。
スザクの母も大概酔狂な人間なので、一緒にお買い物に行きましょうぐらいは言いかねないのだ。
どんな風に遊ばれてしまうのだろうと不安を抱えながら帰ったスザクを待っていたのは客だった。
もちろんスザクは見つかる前に自室にかけ上ろうとしたが。
が。
基本的に話の展開上そんなことが許されるはずがないのだ。
案の定見事に見つかった。
そして一瞬さすがに驚きに目を見開いた母であったが、その変わり身の早さはさがとしか言いようがなかった。
驚愕を一瞬で覆い隠してみせると、客に向かって微笑んだ。
「うちの娘のスザ子よ」
ちょっと待て。
ちょっと待ってくれ。
嘘をつくのってどうだろう。
そりゃあここで息子と言っても恥にしかならないが、いやでもそれってどうなんだろう。
バレなきゃいいという問題でもないし、本職でもなくただの遊びでやっているのだからボロを出さずに隠し通すのは至難の業だ。
といえか後からバレたほうが恥なんじゃないだろうか。
っていうかっ。
そのネーミングセンスは本気で勘弁してください。
そんなことを引きつる顔の裏で考えていたスザクは、これがまだ序の口だということをてんで理解していなかった。
結局母親はスザクが何を苦悩しようがへとも思ってくれないのだ――はぐらいは思っても。…………余計たちが悪い。
「スザ子。こちら、ルルーシュ・ランペルージ君」
しっかりと趣味の悪い名前で呼んで、紹介されたのは二人組の客の息子のほうだった。
綺麗な少年。
自分のことで手一杯なスザクはとりあえず感想としてそれだけを思った。
さらさらの黒髪に少しつり上がりぎりの目は若干きつめの印象を与えるが、美人に拍車をかけている。
全体的に細く、背が高く、モデルか何かとしても十分に注目を集められるだろう。
しかし明らかに色の白い肌とコーカソイドの特徴が、一応名家とされるそこそこ広さのある典型的日本家屋である枢木邸に浮いていた――客人なのだから仕方ないが。
目を奪われる価値のある外見であることは確かだった。
しかしながら所詮は男だ。
スザクはわざわざ男に手を出すほど不自由してはいないし、今のところあえて男に冒険心を発揮するような趣味は持ち合わせていなかったため、彼自身にそれほど興味を抱かなかった。
とにかく早く自室にひきこもりたい。
願うのはそれだけだ。
たとえ着替えても再び顔を出してネタばらしをする気にはなれなかった。だってスザクはこの格好で公道を歩いて帰ってきたと既に客に知られてしまっているのだ。さすがに自分をそこまで追いつめられない。
恨みますよ会長。
ひたすら心の中で呪いの言葉を吐いた。
ミレイがお祭り騒ぎをせめて自分のテリトリー内部だけですませてくれたらこんなことにはならなかったのに。
「は、はじめ、まして。枢木すざっ……こです」
今日1日ノリノリで出しまくった高い声を、ひきつりながらなんとか絞りだした。それでも男の声なのだ。ハスキーという設定で乗り切れるものでもないだろう。
できるならば黙っていたかった。しかしながら背中に突き刺さった母親の視線は既に肉体的に痛かった。
スザクと口をすべらしそうに――滑らすも何も本名なのだが――なって足を踏まれた。本当に情けも容赦も何もない。
スザクはここまででもいっぱいいっぱいなのに、更なる爆弾を落とされるとはまさか思っていなかった。
「ごめんなさいね。うちの子ったらシャイで。ルルーシュ君があんまりかっこいいから緊張してるのよ」
堂々と適当言うな。
「スザ子、ルルーシュ君はあなたの許嫁だから、仲良くね」
あ。テポドンが…………。
拝啓母上様。
貴女はムリという言葉をご存知でしょうか。
ムリだ、ムリ。
その言葉は子供の言い訳のためだけにあるわけじゃない。
本当にできないことを示しているのだ。
まさかこんな馬鹿げたことのために連れてこられたとは思わなかった。
ルルーシュの母は何かにつけて規格外な人間ではあるが――一番の暴挙は父と結婚をし、子供までつくったことだと思う――まさか無理をおせば道理が引っ込むなどと本気で思っているとは思わなかった。
相手の女の子が――枢木スザ子と言ったか――可哀想だ。
冷たい風の中帰ってきたせいだろう、頬をうっすら赤く染めて、女の子らしい白いマフラーに顔をうずめ、学校指定のコートを羽織ったまま脱ぐ機会さえ与えられずにルルーシュの前に引きずり出された彼女はおそらくなかなか可愛らしい部類に入るのだろうが、ルルーシュと並べられてお似合いだとか言われている彼女が不憫でしかたないし、何より申し訳なかった。
何も知らされてなかったのだろう――ルルーシュのほうは婚約者に会いにいくわよ宣言を受けて、その上で胸を押しつぶしいつもの男物の服を身につけ、さあさくさく断って貰おうと気負ってきたのだが、まさかそれが間違いだったとは思わなかった。
というか、いくら男装で過ごしているからといって列記とした女性同士の婚約を本気でまとめていたとは空恐ろしい。
ルルーシュが男装しているのは父親への反抗からはじめたそれがいつの間にか一番楽なスタイルとなってしまったからではあったが、さすがに同性を恋愛の対象にできるほど倒錯してはいない。
あるいは何かしら誤解でも生じていたのかとも思ったのだが――相手を男と思い込んでいただとか、百歩譲って相手の性別を知らなかったとか。
しかしその可能性は笑顔で潰された。
「年も同じだし仲良くね」
とまるで一つも問題がないように言われ、更にはルルーシュにだけ聞こえる声でうまくやるのよと肘で小突かれた。
これで知らなかったと言われても説得力はない。はじめから母はルルーシュを可愛らしい女の子とくっつけるために日本にきたのだ。いくら実の娘が息子のように育ってしまったからと言ってそれはちょっと酷すぎないだろうか――いや、確か日本へ来たのは父親と盛大に喧嘩した挙げ句ここにきてとうとう愛想が尽きたせいだったはずだが……。段取りがよすぎて不信感が募る。
そもそも何故ルルーシュがうまくやらなければならないのだ。
例え相手が普通に男だったとしても、勝手にルルーシュの意志を無視して決められた相手などごめんだとぶち壊す気満々できたというのに。
彼女の方はどうなのだろうと様子を伺えば、言葉もないような驚き方から歓迎している様子は読み取れなかった。
それはそうだろう。
一度も会ったことのない見知らぬ男との将来を押し付けられたのだ。
まともな女性なら喜ぶはずがない。
喜ぶとすれば、男を顔で選ぶような人間ということになる――さすがに自分の顔が女受けするらしいという自覚くらいはある。
もしかすると他に思い人でもいるのかもしれないが、この分だと本人達の話し合いでだいたいの決着がつきそうで、そこに関しては安心した。
問題は親だが――。
こちらは何かしら策を練ろう。
子供の頃に2人の子供を結婚させようね、などと軽く約束しただけのものを倫理も常識も全て無視して子供に平気で押し付ける親だ。
どれだけ本気なのかいまいち計りきれないのだが、破天荒な母の性格から考えるにウエディングドレスまですでに決まっていたとしても不思議には思わない――ふと、喧嘩の原因はこれだろうかとげっそりするほど恐ろしくかつくだらないことを考えてしまった。……………深く突っ込むのはやめておこう。嫁にはやらんなどというふざけた意見は却下で問題ないが白無垢の神前式に披露宴のお色直しは云々というのもぞっとする――というか母の生まれは日本とは全く関係ないくせに何故神前式なのだ。枢木と結婚させるためか、それとも白無垢のために枢木と結婚させようとしているのか。
いや、だが、女同士で結婚させて、その場合だとどうなるのだろうか。
2人ともドレスか。
それとも1人は…………、ダメだ。何をまじめに考えているのだ。
婚約は破棄。
妄想結婚は阻止、だ。
「ほら、ルルーシュも挨拶くらいしなさい」
若干母を睨んだが、しかし枢木の娘には罪はない。
ルルーシュは内心嘆息しながら手を差し出した。
ここで最悪の印象を与えて破談に持ち込む手もあるが、母の恥になるのも、母の友人の評価も下げてしまうのは避けたほうがいい。
それよりは彼女のほうをとりこんで、2人で対策を練ったほうがお互いのためだろう。
よって手を組むべく、あるいはしっかりと働いてもらうべく、なるべく好印象を与える微笑みをうかべた。
「ルルーシュ・ランペルージです。よろしく」
横で母が鷹揚に頷いた。
「それでね、この子もスザ子ちゃんと同じアッシュフォード学園に通うことになったから」
「え」
それは初耳だ。
というか本気で日本に居座る気なのか。
「ちょっと待ってください母上。俺はそんなの聞いていませんよ!」
「だって今はじめて言ったんだもの。よろしくお願いするわね」
彼女のほうを見ると蒼白だった。
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【言い訳】(反転)
本編にもおまけにも何故こんなに女装が多いのかorz
似たようなネタばかりで申し訳ないです。
以下にざあっと書いた後日談を。いえ、あの、かなり飛ばして書いたもので、いろいろと言葉が足りない不完全なものなので、下にもってきました。それでもよろしければどうぞ
死にたい。
と本気で思った。
じゃなければ溶けてなくなってしまうとか、地球の向こう側まで穴を掘るとか。
とにかくなんでもいいから消えてなくなってしまいたかった。
「ルルーシュ・ランペルージです。日本には来たばかりなので……」
転校生の流暢な日本語を聞きながらスザクはもともと俯いていた頭をさらに下げた。
額を机にぶつけた。
隣のリヴァルが不審そうに見てくるが、このいたたまれなさ……どころの騒ぎではない。恥ずかしいのと後ろめたいので心臓が痛かった。これはリヴァルにはわかるまい。
「ちょっと、スザクどうしちゃったわけ?」
「うん。神様が僕に今すぐ首をくくれって言ってるんだ」
ぼやくスザクはもはや自分が何を言っているのかすらよくわからない境地に達していた。
ただ、消えたい。
「なんだよ。あ、もしかしてあれか?転校生と知り合いとか?」
それは命を縮める勘の良さだ。
リヴァルを道連れにさっさと死のう。
そうやって俯いて、スザクは結局一限が終わるまで一度も顔をあげなかった。
教師に教科書で叩かれようがチョークがとんでこようがひたすら黒い雲を背負ったまま俯いてすごした。
恨みます。
会長。
母さん。
古文の鈴木先生――彼はスザクの名前を大声で叫んでくれた。
スザクはひたすら呪っていた。
一限が終わり、迷いのない足音がスザクに近づいてくるまで。
「転校生?何?やっぱりスザクと知り合いなわけ?」
隣の席のリヴァルが気さくに声をかければ彼が小さく呟いた。
「スザク? 枢木スザク?」
思わずスザクの肩がひくりと震える。
ああもう一体母は何がしたかったのだろう。
すぐに露呈する嘘になんの意味があったのか。
「おい、枢木スザク」
ああ、怒ってる。
「顔をあげろ」
本気で今なら死ねると思った。
「死にたい」
「なんでもいいからさっさとあげろ!」
「…………はい」
のろのろとあげるとアメジストが目の前にあった。
「ちょ、転校生、近い、近いって」
リヴァルは咎めるつもりはないんだろう。
他人ごとなので楽しそうに笑っていた。
もう絶対道連れにしよう。リヴァルと心中なんて絵にならないけど、もうどうでもいい。
「枢木スザクなんだな」
「……………」
「男か、男なんだな」
「……」
彼は沈黙を正しく肯定と受け取って、大きくよろめいた。
頭を押さえて机に手をつく。
「何? その確認」
「あれは趣味か?」
彼はリヴァルを完全無視だ。
それどころではないだけだろうが。
「違うっ」
さすがにこれは黙っていられずに叫んだ。
「あれは、あれは、あれは会長の病気だ! 君だってこの学園に入ったからには」
目に涙が浮かんだ。
がしっと胸倉を掴まれて息をのんだ。
殴られるのかと思ったら、今度はルルーシュのほうが俯いてぶつぶつと何かを呟いていた。
あまりのばからしさに怒る気も失せたのだろうか。
スザクだってそのばからしさにには気絶しそうだ。
「何? 何何何何? もしかして見ちゃったとか? あれだろ、スザ子だろ。いやああれなかなかだったもんなあ。さすが俺の会長。スザ子はミレイ会長の力作だぜ」
指をたてるな。
げらげら笑うな。
余計なことを言うな。
俺の発言は告げ口してやる。
だがこれもルルーシュの耳にうまく入っていかなかったのかもしれない。
ばっと顔をあげると彼は真剣に言った。
「これはまずい。最悪だ」
確かにまずい。
男同士の婚約なんて笑い話でなければ悪夢の何者でもない。
とスザクはそのときわかったふりをして頷いたが、その本当の意味は理解していなかった。
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