枢木スザク17才。
人生で初めて。
恋に落ちました。
今まで何人かの女の子と付き合ったことはあったけれど。
その子たちのことだってそれなりに好きだったけれど。
それがままごとに思えるような強烈な感覚。
脳が焼けつくかと思ったそれは、世界をがらりと変えてしまうほど色鮮やかで。
落ちるという意味を知った。
一目惚れを否定したことはないけれど、でもまさか自分がするとはちらとも考えていなかったから、意外に思った。
同時に当然だとも思ったのは、だって彼女はとても、とても、とてもとても、言葉では言い表せないぐらい魅力的だったのだ。
彼女の名前はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
年は同じ17才。
艶やかな黒髪をさらりと背中に流し、少しつりあがりぎみで気が強そうに見える瞳は昔から高貴とされてきた紫。
ふっくらとした紅をはいた唇が、生み出す言葉はまるで音楽のよう。
美の女神に愛された姫がそこにいた。
実際正真正銘の、姫だ。
大国ブリタニア帝国第三皇女。
その彼女がスザクの婚約者だというのだ。
舞い上がらないわけがない。
「はじめまして。枢木スザク」
その声がスザクの名前を紡いだだけで、天にも昇るような気持ちになった。
差し出された手は手袋で見えなかったけれど、とにかく小さくて、細くて、こわれてしまうのではないかと柄にもなくドキドキしてしまった。
顔のほうに血がいきすぎてしまって、自分が何をしゃべったのかよく覚えていない。
何かとちったりしなかっただろうか。
とちって彼女に幻滅されたりしなかっただろうか――どうしよう。まったく記憶にない。それでもどうにかなったはずだと言い切れるほど自分に自信などあるわけがない。
だって、彼女がスザクに――スザクだけに向って微笑んだから、他の全部がどうでもよくなってしまったのだ。
これが、枢木スザクの運命の出会い。
と、言えば、ルルーシュは鼻で笑った。
「は? 馬鹿かお前は」
気分的には足蹴にされた感じだ。
「誰だそれ」
浮かべられた笑みは微笑みではなく、嘲笑というのだろう。
婚約者として紹介された――当人が紹介される婚約者というのもまた変な感じだが、そこにあるのは政治的意図だけであって、恋愛感情など一切なく、そもそも写真すら見たことない相手だった――彼女は実は別人ではないかと思うぐらいに、二人きりになったとたんにルルーシュは雰囲気をがらりと変えた。
先ほどの様子が清楚で気高い百合だというのなら、たとえるなら棘のあるバラのように。
しかし、華やかに。
「さっさと手を放せ」
刺すどころかともすれば毒すらふくみそうなその物言いに、少しも戸惑わなかったというのは嘘になる。
しかしルルーシュが想像したほどには醜態をさらさなかったのは確かだ――と思う。何せルルーシュの反応にさらに不愉快になったようだったので。ということは、醜態をさらすことを期待されていたということなのだろうか。やっぱりさっき何かしでかしてはならないことをしてしまったんだろうか。何でこんなに嫌われているんだろう。
一瞬きょとんとしたスザクだったが、事実は特にスザクを混乱にはおとしたりはしなかった――ついでにもう一回言っておくと、恋につきおとしただけだ。それから、まあ、少しは、落ち込んだ。
彼女はもしかしたら、否、もしかしなくても、スザクを敬遠させたいのだろうか。
何せさすがに演技過剰なんじゃないかと思うほどあからさまだったので。
普通その日あった婚約者があまりに気に入らないからといって、立場もある皇女様がそんな素直な態度を示すものだろうか。他の甘やかされて育った国の箱入り娘ならともかく、我が子でも実力がなければ容赦なく切り捨てるブリタニアの皇女だ。心のままに横暴にふるまっているというのは…………、それとも相手がスザクだからだろうか。
だがまあしかし、ルルーシュのその気位の高い、ではおさまらないとにかく偉そうなスザクを馬鹿にした態度は、多少スザクを傷つけても、ひどくすんなり、それはもうストンと音がなるくらい自然にスザクの中に入ってきた。
さっきの訓練された完璧としか評価しようのないロイヤルスマイルもなかなかよかったが、人を馬鹿にした、上からの視線はとても自然で、罵られるのを覚悟で言えば、ゾクゾクした。
何よりつくったものではなくこれが彼女の素顔なのだと思えば、美しさも増すというものだ。
「放せと言っているんだ、気持ち悪い。お前頭だけじゃなくて耳までついてないのか」
「あ、ごめん。あんまりキレイだったからみとれちゃってた」
早口に謝罪して、会場から控室までとったままだった手を、もったいないと思いながらおろした。
ここは我慢しよう。
なんといっても婚約者なのだ。
これから触れる機会はたくさんあるだろう。
おそらく、否が応でも。
もちろんスザクは大歓迎だが、ルルーシュはどうやら突然連れられてきた婚約者を快くは思っていないようなので、少し心配はあるものの、そりゃあ誰だって将来をともにする相手を人からおしつけられたくはないだろう。
現にスザクだって、実際にルルーシュに会うまで不愉快な現実にふてくされていたのだから。
突然外国に送られて、人身御供のように婚約者をおしつけられ、数日前なんか仕方なく分かれを切り出した恋人、否、元恋人には泣かれた上に平手打ちまでくらった。
今はもうすべてどうでもいいが、ルルーシュの心情が汲み取れない人間ではない。
だから、そう、これからスザクのことを知っていってもらえばいい。
好きになってもらえるように頑張ればいい。
スタート地点はマイナスであっても、最終的にプラスになればいい。
基本スザクはポジティブだ。
しかしそこまで考えて、はたと気づいた。
彼女は今何と言った?
「え、気持ち悪いの!? 熱は!?」
体調不良に気づかなかったのなんて、なんたる失態。
がしっと肩をつかんだスザクにルルーシュがさっと青くなった。
「私に触るな! 気持ち悪いのは貴様だ!!」
蹴りあげられた足が、……………………………………きれいに決まった。
ルルーシュは荒い息をつきながら崩れ落ちた男を冷たい目で見降ろした。
急所を思い切りけりあげてやったので、復活にはまだ時間がかかるだろう。
その間に叫んだせいであがった息を整える。
うずくまってしまったため顔は見えないが、肩が震えているのでまさか気を失っているわけではないだろう。
だが彼が悪いのだ。
ルルーシュはちゃんと言ったではないか。
「触るな」と。
なのにつかみかかってきたスザクが悪い――そりゃあ悪意がなかったことぐらいルルーシュにだってわかっているが、するなといったことをする方が悪いに決まっている。
手加減だってしなかったわけじゃない。
できなかったのだ。
これはもう条件反射だ。
スザクだって今ので学んだだろう。学んでもらわないと、困る。
非常に困る。
ルルーシュが枢木スザクの名前を知ったのは実は昨日のこと。
ここ数日兄の命で国外にでていたルルーシュが家に戻ったのは昨日の昼だった。
まっていたのは苦い顔をしたミレイ・アッシュフォードだった――7年前、母が死んで、後見をしていたアッシュフォードは一時の栄光をすべて失った。アッシュフォード家は本国にこのままいても利はないと判断し植民エリアに移ったが、ミレイだけはルルーシュの傍にいることを選んでくれた。かけがいのない、友人だ。
いつもならおかえりと笑って土産をねだる彼女なのに、この日ばかりは違った。
帰って一番「ごめんなさい」と謝ってきたのだ。
ルルーシュは何がとは問わなかった。
変化は見てあきらかだ。
使用人もいなくなり、今はミレイがアッシュフォードから連れてきた咲世子一人。
とりあえずのところ奪われることなく与えられてる――または放置されているともいう――アリエス宮は、それでも皇帝の寵愛厚かったマリアンヌ王妃があたえられた離宮だ。その咲世子一人で全て行き届いた管理をするのは不可能である。
必然的に手がまわっていなかった庭が、王家の庭らしく華やかに造られていた。
ここ数年、あけたこともないような部屋に人の侵入が認められ、開けてみれば――その時には想像がついていたのでもはや驚かずに、ルルーシュはただ顔をゆがめた――見たことのない家具が運び込まれ、人がすごせる環境が用意されていた。
瞬時に考え、絞り込まれた候補は二つ。
とうとうここも追い出され、新たな主人を迎えるか。
あるいは、主には一切の許可をとらず住人が増えるか。
確認したルルーシュの部屋がそのままであったから、後者か。
こうなってくるともはやルルーシュの意思は関係なく、誰がくるのかという疑問さえ無意味だ。
妹を実質上人質にとられているに等しいルルーシュは、すべてに諾と答えるしかないのだから。
いっそ疑問を抱かない様子を装って無関心にいないものとして扱ってやろうかとも考えたが。
兄に呼ばれれば行かねばならない。
「日本はどうだった?」
一通り家を見てまわって溜息をついたルルーシュを呼び出したのは第二皇子シュナイゼルだ。
親切面をしてまったく白々しい。
「ところで。今回君の婚約が決まってね」
その言葉にとうとうきたかと思った。
それだけだ。
特に他に感想はない。
母が死に、残された妹をこれ以上危険にさらさないため、ひたすら庇護を乞い、最低限の能力しか示してこなかったのだ。
出る杭として打たれぬように、しかし切り捨てられぬように。
結果確かに今ルルーシュもナナリーも殺されずに生きている。
それが全てだ。
けれど、せっかく生きている駒を有効に使わずに放置しておくなどということをこの国はしない。
有効な後ろ盾も失った。
あるのは血筋だけの女子供。
何に使われるかなど、考えるだけばかばかしいではないか。
だから抵抗もしない。
逆らえば、この食えない兄はあきらめるかもしれない。
でも結局どうなるかといえば、話はたちきえず、妹にいくだろう。そしてルルーシュは今度こそ、何の利用価値もないとして捨てられる。
それだけはなんとしてでも阻止しなければならないのだ。
「相手は日本の首相の息子で」
日本――小さな島国だが、未だに独立を保っている稀有な国。
理由はサクラダイトと呼ばれる資源の産出国であることと、やはり政治的手腕だろうか。
だが侵略を許さなかったわけではなく、侵略されていないというだけのこと。
軍事力の差が一目瞭然なれば、ひとたびブリタニアがかの国を手に入れようと思えば土地は一晩にして焼野と化すことだろう。
日本がそれを避けたいのはもちろんのこととして、ブリタニアとしても無駄に資源を消費したいわけではない。
そこで今回人身御供を差し出してきたというわけか。
体面上は独立を。
しかし実際は従属を――少なくともそうすれば、人は死ぬことはなく、せめて文化は守れる。
とはいえ差し出されたところで少々扱いに困るのだが。
あまり邪険にはできず、かといって小国だ。第一皇女以下をあてがうには、そこまでの価値はない。いくら京都6家に名を連ねる名家で、実質上のトップである首相の息子とはいっても、王政ではなく民主制の首相は定期的に変更される。そんな者にあてがわれるとなれば王妃たちもうるさい。
否。
一人丁度うってつけの人間がいるではないか――どんな思惑があるのか考えるだけでむなしいか。
いつ頃決まった話だったのだろうか。
今回ルルーシュが向かわされていたのが日本であったことを考えれば、もっと前からきまっていたのだろう。
実質は文化交流の名前の接待旅行でしかなかったが、はたからみれば婚約者のもとを訪れているようにとらえることしかできないではないか。
ルルーシュに黙って家の改造をしてくれるわ、演出までしてくれるわ、まったくもって親切なことである。
見事にいいように扱われているのは、おそらくお互い様なのだろうが。
たかだか婚約――どうせ大切なのは形で中身ではない。反対に言えば名前だけなのだからどうにでもできるはずだ――なのだけれど、重苦しい気持ちになるのはわけがある。
貞操がどうのこうのという幸せな論理を展開する気はない。
問題は一つ。
ルルーシュは男が嫌いだ――貞操以前の問題である。
触られると鳥肌が立つ。
近づかれるのも嫌だ。
本当は兄だって御免こうむりたい。
最初に言ったようにお互いにないものとして扱ってしまうのならまったく問題はないのだが。
何をとちくるったか婚約者殿は、どうやらルルーシュに歩み寄る気があるらしい。
無害そうな笑顔を浮かべて、何と面倒なことか。
どうやって嫌われよう。
とりあえず当面の課題だ。
カレンがはたから見れば自分の行動が非常識極まりないということを理解しつつも、その部屋をノックしたのは、ひとえに女友達を心配したからである。
第三皇女の突然の婚約発表に腰をぬかしそうなほど驚いた一週間程前だった。
最初は趣味の悪い冗談としか思えなかった。
しかし、カレン・シュタットフェルトとして力をつくして調べれば調べるほど、ああ、悪夢だ、確定事項としてかたまっていった。
しかも相手は日本人だという。
カレンの血の半分の原点だ。
さらに本人は日本を訪れていて連絡がとれないという。
一体いつ頃決まった話だったのか。
そういえば前回も彼女は日本に行って、カレンに土産を買ってきてくれた。
饅頭、羊羹、最中にかき氷器はうれしかった。
扇子はさすがに趣味のいいもので、畳まで買ってきたのにはさすがに少し引いたが。そもそも使いどころがない。使いどころがない上に使いたくて仕方なくなるのだから悪としか言いようがないではないか。
その時は何も言っていなかったくせに、今考えれば、その時にはすでにまとまっていた話に違いない。
水臭い。
皇族の婚約となれば慎重にことが運ばれるのは当然だろうが、自分にぐらいには話してくれてもいいのではないかと思うのは、やはり思い上がりなのだろうか。
幼馴染として、7年前は何もできなかったカレンだけれど、親友として、だからこそ今度こそ周りに何を言われようがルルーシュの力になろうと決めていたのに。
おそらく彼女がカレンに何も言わなかったのは言うことができなかったか、あるいは言う必要性を感じないほど彼女にとって大した意味をもっていないということなのだろうが。
それでもだ。
彼女が将来をともにする相手を決めたことを、彼女の口からではなく公式な発表といて公共の機関を通じて知ったということは思った以上にカレンを傷つけたらしい。
だが、だからといって、ここで拗ねていてはどうしようもない子供になってしまう。
連絡のとれないルルーシュに苛立ちを隠せないにしても、カレンはカレンの準備を着々と進めていた。
今はほとんど価値を見出されていないとしてもさすがに皇女の婚約は国を挙げての大事である。
本国に相手がついてそのまま行われるお披露目とやらにシュタットフェルトも招待されていた。
どれだけの貴族が欠席するかなど知ったことではないが、どうやら行かない心づもりだった父から招待状をうばうようにしてカレンは今日この場にきた。
もちろん間違った行動とはさらっさら思っていない。
親友の婚約だ。
せいぜい気合いをいれて着飾ってやったし、罵倒の言葉も準備した。
お披露目は思ったほどすたれてはいかなかった。
というか、むしろなぜと思うほど華やかだった。
どうやら第二皇子が手を入れたらしい。
見かけだけでもルルーシュが正当に扱われることにカレンとしては否やはないが、ルルーシュ当人は厭味か何かだとでも思っているかもしれない。
まあ確かに、100%好ましい状況ではない。
ある意味ではいい迷惑とも言い切ってしまいたい。
彼女が粗末に扱われるのなんて絶対に歓迎しないがだ、だからといってこうも派手派手しくやられてしまったら、ルルーシュに直接会うことができないではないか。
ルルーシュとその婚約者殿の前は、さすがにこんな場なので人が群がるなどという光景はないものの人が途絶えることはない。
次こそ自分がと構えている人間が近くでちらちらと様子をうかがっているのだ。
それを無視してカレンが進み出ればルルーシュはカレンを優先してくれるだろう。
それはわかっているが故にできない。
カレンは今日、用いた手段故にシュタットフェルト家の代表なのだ。
あまり軽率なことはできなかった。
おかげで結局一言もかわせなかったのだから口惜しい。
しかたなく諦めて別の手段を考えたが、ほめられたことではないどころか、我ながら呆れたことだと思った。
主役の、婚約者の二人が、二人きりでいる部屋に突撃するだなんて。
二人が楽しんでくださいと言い置いて抜けた会場はすでに政治的駆け引きの場と化している――もちろん二人が下がる前からそうだったが、主役がいなくなれば話の流れもかわってくる。ルルーシュを遠まわしに避難するような言葉も耳にし、カレンはこぶしをにぎった。
カレン・シュタットフェルトでなければ、殴ってやったものを。
皇女およびその婚約者と話をしたりないのはカレンだけではないだろうが、休憩している部屋におしかけていくほど恥知らずな人間はカレンだけだ。
そして許されるのも、おそらくカレンのほかにはそういまい。
部屋の前にいたSPには止められた、気にせずノックした。
名乗りすぐに入室許可を得てしまえば彼らは何も言えない。
それでもお嬢様らしくやわらかく微笑んでからカレンはその扉を開けた。
おめでとう、は論外だ。
会場で見たルルーシュのロイヤルスマイルは見事だったけれど。
それに騙されて他でもないカレンがそんなことを言おうものなら、絞め殺されるに違いない。
たとえ政略結婚じゃなかったとしても「どうしちゃったの!?」ぐらいは言わねばなるまい。
それだけの理由をカレンは持っている。
また、その完璧な笑顔の下、幼馴染が相当不機嫌であったことは長い付き合いだ、悲しいかなわかってしまった。
だからカレンが用意していた言葉と言えばせいぜい「突然婚約なんて驚いたわ」だったり「どうして教えてくれなかったの?」やら場合によっては「大丈夫?」程度であったの、だが。
広がった光景にしばし時を止めたように立ちすくんでしまったカレンは、口を開いて――閉じた。
「……………………大丈夫?」
相当な逡巡のあと、ようやく口にした言葉は間抜けなものだ。
用意していた言葉の一つには違いない。
だがしかし含まれた意味が180度違った。
予定では、ふんぞり返っている友人にこそ言うべきはずの言葉だったのに。
何がどうなって、初対面のその婚約者に言うような事態におちいってしまたのか。
頭が痛い。
うずくまった男に恐る恐る声をかけてみれば、どうやら復活の兆しが見えてきたのか、苦笑いような情けない顔をあげてうなずいた――情けないが、それでも笑おうとする心意気だけは尊敬に値するかもしれない。
じんわり汗をかいているように見える。
どうしたのか、なんて能天気に聞ける雰囲気ではなかった。
というかだいたい見ればわかる。
婚約までこぎつけたのだから病気とは折り合いをつけたのかと思っていたが…………。
あるいは婚約者だけでも許容範囲に入れたのかと思ったのだが。
難儀だ。
「最初に把握しておきたいんだけど。この男、貴方に何したの?」
なんとなく半眼になってしまったのは、どう考えても男のほうに非があったとは思えないからだ。
もしもこの男のほうがカレンの予想に反して、ルルーシュに無体を働いたとでも言うのなら即しめあげてやるのだが。
荒い息をついておびえる女と急所を蹴られたらしい男――確かに実際そういう構図に見えなくもない。
けれど、先ほど会場での穏やかそうな人柄とこの場において恥知らずな行為に及ぶような人間には見えなかったこと。それから彼女の過去の所業を思えば、どうしてもでてくる答えは限られてしまう。
しかしながら腐っても友達である。
まず最初に疑ってかかるのはさすがにまずいだろうと状況説明を求めた。
味方についてやりたいと思わないでもないが、甘やかすのは友情ではない。
これからそれで苦労するのが彼女自身であればなおのこと。
病気克服のために力を貸すのが真の友情というものではないだろか。
「肩をつかまれたんだ」
「あ、あの、気持ちが悪いっていうから、ついこっちも焦っちゃって。驚かせたんなら申し訳なく思うよ。でも、本当に他意があったわけじゃないんだ。変なことしようとかじゃなくて!」
憮然として言ったルルーシュに、枢木スザクが焦って言い訳をはじめる。
さすがに状況の不利はわかっているのかすがるような視線までもらってしまったが、そこまで心配しなくても悪者と決めつけてけり上げたりしないから安心してくれていいのに。
同じ日本人の血をもつものとして贔屓するわけじゃないが、彼は悪くない。
証拠にルルーシュも特に反論はしない。忌々しげにスザクを見下ろすだけだ。
なんだかかわいそうになってきた。
悪いのは彼ではない。
知らなかったことだ。
あるいは誰も襲えてあげなかったことだ。
だからカレンがここで注意しておいてやるのが優しさというものだろう。
「あのね、枢木スザク。私から一つ教えておいてあげるわ。重要なことだからよく聞いて」
意外に真剣なまなざしで問いかけてくる彼は、茶色の天然パーマに深緑の瞳と、色合いは日本人ぽくないけれど。
心意気は日本男児と信じたい。
これを知ってめったなことをしたならば、私が殺してやる。
でなければ味方になてやるのもやぶさかではない、と。
何を言い出すのだと軽く睨みつけてくるルルーシュの視線は無視してカレンは枢木スザクに向きなおった。
「このお姫様はね、極度の男嫌いなのよ」
だから今まで男は兄弟以外寄せ付けなかったし、近づいてくるようなら容赦なく切り捨てた。
けれどさすがに彼までは切り捨てることができないから苦心しているとそういうところだろう。
しゃがんで視線をあわし、ぽんと肩に手をおいた。
「は?」
呆然とする男があらためてルルーシュを見上げたの時には三分ほど時がながれていただろうか。
「男が嫌いなの。半径1m以内に入ったら回し蹴りが飛んでくると思えばいいわ」
「回し……蹴り?」
「銃で撃たないだけ感謝しろ」
さらに物騒なことを言い出した彼女に頭をふった。
相変わらず重症だ。
男嫌いも、素晴らしい女王様ぶりも。
「頑張って」
カレンは応援ぐらいしかしてやれないが。
先行き不安だ。
「カレン!? お前どっちの味方なんだ」
せっかくの久し振りの環境の変化だ。
いいように働いてくれればいいのだけれど。
「もちろんルルーシュの味方よ。友達として忠告するけど、あなたのそれはさっさと直すべきなのよ。この際荒療治でもいいわ。あ、そうだ。だけど枢木スザク、ルルーシュを泣かしたら東京湾にコンクリート詰めで沈めてやるからね」
指を突き付けて言い放った。
母国であるだけ感謝してもらいたい。
こくこくと頷く様子に満足してお茶を催促した。
思い出したが、彼女に言いたかったことはまだまだこれからなのだ。
「えーっと、紅茶と緑茶があるけど」
すすめられもせずに座ったカレンに、そっと尋ねてきたのはスザクのほうだ。
腰も軽い方らしい。
いいことだ。
「「緑茶」」
諮らずもルルーシュと声がかぶったわけだが。
……文化云々は今更突っ込むところでもない。
ただ、蹴り上げた男にその態度はどうなのだろう。
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【言い訳】(反転)
自分で読みなおして。
これほど感想のない話も珍しいorz
カレンかわいいよカレン
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