夜中、寝苦しさに目を覚まし、そして後悔した。
いや、起きなかったら何か事態が好転したかといえばそんなことはないわけで、むしろ悪化した可能性が高いことを思えばここで目を覚ましたことを幸運と感謝でもすべきなんじゃないかとも思うわけだけれども、しかしどうしても受け入れがたい現実がそこにあった。
腹の上でのそりと黒い影が動いた。
「ありゃりゃ、起きちゃった」
あーあ、とたいして残念そうにも聞こえない声は聞きなれたものだ。
だからこそ嫌な予感が最大限に膨れ上がった。
血のつながった妹。
それ以上に危険な響きを持つ言葉などないと言いきってしまえる程に。
暗闇の中、良く顔が見えなくても容易に想像がつく。
にまりと笑う顔。
そして何よりもう一人の存在も。
「全……終(準備は終わった)」
もう一人の声は頭の上の方から降ってきた。
「あ、じゃあ丁度良かったね」
「クルリ、マイル。何してるんだお前たち」
兄ぶった台詞がこの場で、この二人相手にどんなに滑稽なものかわかってはいたが、それでも一縷の望みをかけて言わざるを得なかった。
そう、地獄を見たくなければ。
しかしたぶんもう色々と遅い。
それは起き上がろうとして手首に強い抵抗を感じたことからも明らかだった。
不自然に挙げられた両腕。
そんな体勢で寝る習慣はない。
硬い感触。
軽く動かせば金属音がした。
手錠か。
どこで手に入れたのか。
というか何故己はここまでされるまで起きなかったのか。
自分の間抜けさにも頭痛がする。
疲れていたというのは言い訳になるだろうか。
あるいは彼女らが懐いている秘書に薬を盛られた可能性も考慮したほうがいいだろう。しかし今はそんなことに思考回路を割いているよりは、これからどうするかを考える方がよっぽど建設的だ。
「あのねー今日はちょっと臨兄に協力してもらいたいことがあるんだー」
「……願(お願い)」
それは夜中に人の部屋に忍び込んで拘束して腹の上に乗ってしなきゃならないお願いなのか。
もちろん返事は決まっている。
「断る。お前たちの趣味の悪い遊びに付き合ってる暇はないんだ。お前らだって明日は学校だろ。早く寝なさい」
「あは。そう言うと思った。臨兄最近私たちに冷たいよねえ」
「……嫌(意地悪)」
「今回も絶対内容聞かずに駄目って言うんだろうなって想像はしてたけどさーでもやっぱりちょっとショック。だから今日は、臨兄には強制的にお手伝いをしてもらうことにします!」
「……不(逃がさない)……」
ちら、と光ったのはマイルの眼鏡だろうか。
奥の瞳は見えない。
だが、そのお手伝いというのが碌でもないことであろうことだけは疑いようがなく、ほらこれ、と彼女がとりだしたものを目にしてある程度予想がついていたとはいえ血が引いた。
「玩(大人の玩具)……」
「ピンクローターっていうんだよね。安かったからネットで買ってみたんだけど、ほら、やっぱり自分で使うのは不安じゃん? だからどんな感じか臨兄、モニターしてよ」
「ふざけるな!」
えげつない手ばかり使うよねとは友人の言葉ではあったが、やはり身内に対しては手ぬるくなる。
とはいえここで妹を蹴りあげるのに躊躇いを覚えるほど自分を捨ててはいない。
だが、妹たちも伊達に長年家族をやっているわけではない。
兄の本気を感じ取り、機敏に動いた。
蹴りあげられる前に片方ずつ足を押さえてしまう。
少女とはいえ全体重を片足にかけられれば動けない。何より身体が重い気がする。これは本格的に薬を盛られた線を考えるべきか。
不治の中二病と言われる臨也をしてどうしようもない中二病といわしめる双子は、腕、足と四肢の自由を完全に奪ってしまってから、その今日のメインであるところの卵型の小さなローターを顔の上でぶらぶらと揺らして見せた。
電源のオンオフと強弱を調節するためのリモコンがコードでつながったそれは、どうやら一人一つずつ購入したらしく、計2つ。
「ちなみにこれ、臨兄的にはどこが一番感じる?」
「知るか!」
「教えてくれないの? ほーんと、最近の臨兄は意地悪たよねえ。昔はもっと優しかったし、色々教えてくれたのに」
そんなことを言われたところで、淫具の使い方を妹にレクチャーする兄がどこにいるというのか。
きっと睨みつけ、もう一度降りろと低い声で命じた。
だがそんなものに応じるくらいなら初めからこんなことは企まなかっただろう。
マイルはつまみを小さく回して電源を入れ、小さく振動を始めたローターをわざとらしく頬に数度ぶつけた。
「でも、教えてくれないんだったら勝手に学ぶからいいもんね。色々試してみようね、クル姉」
「……所(最初は何処?)」
「何処がいいかなあ。ここ? それともここ?」
「……っ」
丁度乳首の位置に、服の上からローターを押しつけられ、上がりそうになった悲鳴を慌てて噛み殺しす。
「どう? 気持ち良い?」
布を介した振動は、それでも暴力的なまでに強引に快感を引きずり出した。
「んなわけ、ないだろ」
否定する声がどこか上擦る。
「……嘘(嘘つき)」
「臨兄気付いてないの? 乳首、立ってるよ?」
服の上からでもわかる小さな膨らみを見つけ、マイルが興奮したようにローターでぐりぐりと押し付けた。
クルリは一度ローターを離すと、服の中に手を突っ込み臍から下へ下へと少しずつローターを転がしていく。
就寝用の短パンのゴムをずらしながら。
「クルリ! マイル!」
「臨兄ってばまだ余裕? もっと強くしてみようか」
マイルが乳首にローターを押しつけたまま、振動の強度を一気に捻った。
その瞬間、がんっと手錠の鎖が音をたてた。
「ねえねえ、臨兄、これをさ、臨兄の中に入れて放置プレイってどう思う? ねえ、泣いちゃう? 泣いちゃうかな? わたしねえ、臨兄の泣き顔見たいな。クル姉は?」
「……見(見たい)」
尻論
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