2. 中出し




 ぎゅっと折れそうな程強く二の腕を掴まれて、ああイくのかと知った。


 くっと耐えるように眉を寄せる顔は身動きすればぶつかってしまうのではないかと思うほどにすぐ近くにあるのに、視界は水っぽく歪んでいて。
 もっとよく見たいと思うのにぼんやりとしか見えないのが何より残念だった。


「……っ」


 どく、どく、と注ぎ込まれる熱い液体。
 吐きだされた欲望が腹を満たす。

 この瞬間が好きだ。

 中で出されれば後始末が面倒だとわかっていても、直接受け止める感覚が好きなのだと、口に出せば調子に乗るだろうから言わないけれど。
 どうしようもなく衝動に支配されて、頭の中が真っ白になる瞬間。

 身体から、思考から、全てを自分のものにしているような。
 無防備な相手を喰っている気分になれる。
 彼の身体から作りだされたものを、次世代に繋がる可能性のあるそれを、全て搾取して。
 全て無に帰して。
 そんな暗い悦びに浸っていたら、更に腕を締めつけられて流石に声が零れた。


「いっ――――」


 折れてしまうと足で背中を蹴ってみるものの、大したダメージを与えられないことは知っている。
 ふっと息を吐いて力の抜けた身体が覆いかぶさってきたので、もう一度背中を蹴った。



「重い」
「うぜえ。黙れ」


 声にもう熱はない。
 あるのは倦怠感か。
 疲労感に掠れかけた低い声が耳のすぐ傍でして、ぞくっと寒気に似た何かが背中を駆け上がった。


「てめ、締めつけんじゃねえ」


 丁度引き抜こうとしているのをまるで引き留めるかのようにきゅっと力が入ってしまって、思わず顔をそむけた。

「早く抜いてよ」


 ごまかすように可愛げのないことを言う。
 とはいえ可愛げなど生まれてこのかたあったためしがないわけだが。
 あっても正直気持ちが悪いだけだろう。

 返事の代わりに舌打ち一つ。

 ずるりと身体から抜けていく際に前立腺を擦られて、思わず腰が浮いた。
 質量のあるものが抜けてしまって、閉じようとひくつく蕾から、そのたびにこぷりと白濁が零れる。
 それが肌を伝っていく感触に肌が泡立った。


「なんかすげえ光景だよな」

 しみじみと言われ、臨也の頬に赤みがさす。
 恥部をじっと見つめられるのは流石に羞恥心を誘う。
 見るなと蹴ってやろうとしたが、ぱんと音をたてて足を掴まれた。
 ついでとばかりにもう片方も掴まれて、大きく開かれ、見せ付けるように全てを晒す格好をとらされた。


「シズちゃん!」
「いい格好だな」

 抗議の声は嘲笑の中に消える。
 つっと零れた己の精液を指ですくい、その指をそのまま後腔へ、まるで零れた精液を中に戻すかのように突きいれられて、臨也は悲鳴を上げた。


「駄目だな。ちゃんと締めとけよ、零れてんぞ。だらしねえなあ」


 指をぐるりと回せば更にたらたらと零れでる。
 零れないようにか、足を深く織り込まれ、その蕾を上に向ける体勢に、今度こそ真っ赤になった。
 実際重力に従って、精液が奥へと流れていっているような気がする。

 腹の奥へ、奥へと。
 犯される。
 何にも触れられることのない奥の奥まで、穢されている気分になる。



「栓でもしてやろうか?」
「ふざけんなよ。シズちゃんが出しすぎなんですー。だいたい終わったんだったらシャワー浴びたいんだけど。さっさと掻き出してしまいたいんだよ、気持ち悪い」
「んな格好ですごまれても間抜けなだけだぜ?」

 きっと睨みつけるが確かにこんな体勢では間抜けだろう。
 言われずともわかってはいるが、実際に突き付けられうように口に出されると、屈辱感が増す。


「早くど……っ、ひぅ!」


 中に突きいれられた指がぐっとくの字に曲げられ、抗議の言葉が霧散した。
 そのまま長い指はぐちゃぐちゃと濡れた音をたてて柔らかくなったそこを更にほぐすように掻き混ぜ、そのたびに白濁が零れる。
 押し込みたいのだか掻きだしたいのだかわからない。


「抜けよ馬鹿!」
「まだ足りねえんじゃねえのか」


 指にきゅっと吸いついて。

 抜けよも何も離さないのはそっちだろと揶揄される。
 がばがばだったらそれこそ問題だろうが、まるで求めてるのは臨也の方だと、臨也だけだとでも言いたげな言葉にかっとなって腕をつかんだ。


「俺は、掻き出したいんだよ! 早く抜け。っていうかね、生でやるとかほんとシズちゃんってマナーがなってないよ。衛生的じゃないし、後処理面倒だし、ほっとくと腹下すしね」

 力任せに引っ張り出そうとするものの、化物に力ではかなわない。逆に2本3本と指を増やされ、奥まで突きいれられて喉がのけ反った。


「あう! い……あああっ」


 今まで入っていたものと質量も長さも違うけれど、自由度では指にはかなわない。
 前立腺を刺激され、おさまっていた前も勃ちあがる。


「ほんとお前って口開くとむかつくことしか言わねえよな。喘いでてもうるさいが、むかつかないだけまだマシか。たまには素直に言ってみたらどうなんだ。ああ?」
「な、にを」
「生の方が好きなのは手前の方だろ。なあ、臨也君? 中で出してる時自分がどんな顔してるのか手前知らねえだろ」

 回転の速さを誇るはずの頭脳が一瞬完全に停止した。
 何を言われたのか理解するのにひどく時間がかかったが、理解してしまえば赤くそまった頬が一瞬で青ざめた。




「さい、あくだ。最悪だよシズちゃん。死ねよ。マジで死んで」





 死にたい、と割と本気で思った。