油断した、と言わざるを得ないだろう。
まさかこんな初歩的な手に引っかかるなんて。
恨み言よりも反省が先に立つ。
しかしその反省さえともすれば抗いがたい欲求にかき消されそうになってしまうのだが。
「てめ、なんのつもりだよ」
不機嫌な声に、並の人間ならそれだけで震えあがってしまいそうなほど凶悪な目つきで睨まれる。
だが、そんなものにかかずらっている余裕は今の臨也にはなかった。
それに、不機嫌な声の中に動揺と欲望を見つけてしまえば怖いものなど何もない。
今はただ欲しい。
頭の中はそれだけだ。
「あは、おはよーシズちゃん。っていっても俺が用があるのはシズちゃんじゃなくてシズちゃんのちんこだけなんだけどね。あれだったら寝ててくれていいよ?」
まだ夜中だしと指し示す通り時刻は真夜中の2時を指す。
明日の朝早くから仕事が入っている静雄にしてみればここは寝ていたいだろう。
咥えていたペニスから口を離し、しかし時間が惜しいと言わんばかりに早口でまくしたてれば、寝ていていいよと優しさを示してやったにも関わらずちょっと待てと乱暴に頭を掴まれた。
「ちょっと離してよ」
「離してよじゃねーよ、お前何やってんだ」
「見たらわかるでしょ、フェラ」
つつ、と指で裏をなぞりながら唇を舐める。
その刺激にか、その仕草にか、静雄が小さく息をのんだ。
本人とは違い素直な股間のそれは既に立ち上がり、先走りと臨也の唾液にてらてらと濡れていた。
十分に硬くなったからもういいだろうかと思っていた矢先に目を覚ますなんて、あと少し寝ていればよかったものをと口惜しく思う。
そんな切羽詰まった臨也の様子に静雄が眉を寄せる。
「盛って夜中に人んち侵入とは、覚悟できてんだろうな変態が」
ぐっと頭をつかむ手を入れられ、頭が割れるような痛みに涙が出た。
「お、れだって、本当はしたくなかったんだけどね! 盛られたんだよ。っていうかほんとに痛いよやめて離して」
「あ? 盛られた? 薬か?」
「そうだよ。ヤりたくてヤりたくてヤりたくてヤりたくて気が狂う素敵で変態な薬をね。だから俺は今、これを俺の中に入れて、ぐちゃぐちゃにかき回して、がんがんに突いて、あんあん言いながら気持ちよくイきたいわけだ」
もっとも気持ち良くイってそれで終わるかと言えば、おそらくそう簡単に収まるものでもないのだろうが。
まったく厄介なものを持ち出してくれた。
まさかそんな素晴らしいことをしてくれるなんて思ってもみなかった気の弱そうな依頼人の顔を思い浮かべて舌打ちをしたくなる。
あの男とセックスがごめんだったと言うよりは、思い通りになってやるのが癪だったので本人の前では何もないような素振りを装ってやったが、もう限界だ。
それにしてもあの期待に満ちた視線は不愉快だった。
ああだが、さようならと告げた時の絶望的な目は、ぞくぞくした。
「シズちゃんちに来たのは、まあ、一番近かったからだけど。協力してとは言わないから、これ貸してよ。気持ち良くしてあげるし」
ね、とうっすら笑って言ってはみるが、相当余裕のない顔をしているだろうことは嫌でもわかった。
この男に借りを作るのも弱みを見せるのもごめんだったが、熱に犯された思考はただヤりたい入れたいイれたいとそれだけを欲して冷静な判断というやつを遠くに投げ捨ててしまった。
「断る。って言ったら?」
「へえ? でもシズちゃんももう辛いんじゃないの? 勃ってるし。気持ち良くしてあげるよ?」
亀頭にかりっと爪を立てた。
ふるりと震えるのに可愛いと忍び笑いを零して。
そのまま腰をまたいで今度は下で銜えこんでやろうとする臨也を、静雄はその頭を押さえこむことで制止した。
そのまま後ろにぶつけるかのように押し倒し、乗り上げて動きを封じる。
「ちょ、いきなり何、なっ……あっ、ふ」
「ちょっと違うんじゃねえのか、臨也君よお」
「あ、あ、ちょっと、いた、痛いよシズちゃ」
押さえつけ、上から見下ろしながらすごむ。
今更そんなのでひるむような付き合いではないが、限界を訴える身体は股間をぐっと押さえつけてきた膝にさえ感じてしまって情けないことこの上なかった。
痛いのに。
なのにそれにすら感じてしまう。
「んだよ。何で感じてんだよこのど淫乱が。だいたい盛られて嵌めてもらおうって考えてる時点で頭可笑しいんじゃねえのか?」
普通、女でも抱きたくなるんじゃねーのと馬鹿のくせに至極まっとうなことを言ってくる男が憎い。
「それによ、ここでお前が言うべき言葉は入れてくださいお願いしますだろ?」
「ひっ、あ、ああぁ!」
ぐりぐりぐりと更に膝で圧迫されてもはや痛いのか気持ちいいのかすらわからなくなってきた。
がくがくと足が震える。
溺れてしまうと手を伸ばして、静雄の首に縋った。
「ほら言ってみろよ。そしたら俺も入れてやってもいいかなって気になるかもしんねーし」
俺の淫乱な穴にその立派なペニスをさしてくださいだとか、奥までついてぐちゃぐちゃにしてくださいだとか、下のお口にお腹一杯になるまでミルクを注いでくださいだとか、AVの見すぎだと普段なら揶揄してやる言葉を並びたてられて臨也は屈辱に震えた。
何が悔しいって、それを言ってでも欲しいと思ってしまった自分自身だ。
「おねがっ、シズちゃ――――」
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