第38回騎士姫祭りを開催します!
〜プロローグ〜


 朝のHR。
 授業の短縮を知らせてくれるそれはなかったら困るが――まあ10歩譲って、授業変更や教室変更もいれておこう――なんの連絡もない日はいまいちその必要性を疑問視してしま
う。
 だからどうしてもたるんだ雰囲気になってしまうのは致し方ないことだ。
 とはいえ連絡がある日だったら真剣に臨むかといえばそういうわけでもなく、気合いをいれるほど重要でもないが出ないと遅刻になるしというレベルの認識でもってなされているというところだろう。

 だがしかし。
 一年毎日やっていれば、1日ぐらい緊張の走る日があったりもするわけで。


 配られた白い紙にリヴァルとルルーシュは思わず顔を見合わせてしまった。


「なあルルーシュ」

 躊躇いがちにだが先に口を開いたのはリヴァルだった。


「言うな。言いたいことは十中八九同じだ」

 ルルーシュはもう一度机の上の紙を見下ろしてみたが、もちろんそこに書いてある文字がかわるわけもなく、簡潔なそれは何度読み直しても一つの意味以外もたなかった。
 微妙に顔を歪めてリヴァルを拒否してみても、そう、何もかわらないことなどわかっている。


「や、でもあえて言わせてくれ」

 リヴァルの顔も心なしか車にでも酔ったようになっている。
 聞くなともう一度止める暇がなかった――というわけではなく、酷い顔だと一瞬そちらに気をとられてしまったばかりに相手に言葉を口にするだけの時間的余裕を与えてしまっ
た。
 あ、と思ったときにはもう遅い。


「なあルルーシュ、これ、なんだと思う?」

 呼び方からわざわざ仕切り直して、リヴァルは手元の紙をひらひら振ってみせてきた。

「紙」

 短い答えは間違ってはいないが間違っている。
 とはいえどこぞの誰かのように天然ぷりを表すのではなく、現実逃避に近かった。 
 限りなく近かったが、無駄なあがきでしかない。
 何せ敵は逃げようとする前からこちらの襟首をつかんでくださっている。
 気づいた時にはもう遅い。
 ――思わず罠のような扱いになってしまった。


「そうなんだけど〜そうじゃなくて〜。無駄なボケはいらないから、ルルーシュ」


 あのリヴァルものりが悪い。
 なんだろう。
 普通の会話で返されて、無駄度があがった気がする。


「これって生徒会からのアンケートなんだろ?」
「そう、書いてあるな」

 
 右下に。
 普通の、ごくごく一般的な活字のはずなのに、どうしてかルルーシュの目には踊ってみえる――眼科に行ったほうがいいだろうか。その場合その理由は学校を堂々と休むのはどうだろう。一応選択肢にいれておこう。
 とにかく生徒会を語る勇者がこの学校にいないのであれば、生徒会発行で間違いないはずだ。



「何か聞いてたか?」
「いや何も」

 寝耳に水とはこのことだ。
 そっちはと無意味な問いかけはやめておいた。


 それほど大きくない紙に印刷された文字は少ない。
 アンケートにご協力をから始まり、アンケート内容は一つ。
 一つだけ。


「なるならどっち?」

 リヴァルが読み上げる。

「どっちにも興味ない」

 ルルーシュの回答は残念ながら選択肢にない。
 無記名アンケートながら、全員もれなく答えるようにと但し書きがやけに目に付く。
 無記名なのだから書かなくても自分だとバレるわけではなかろうに、どうしてだろう、書かなくてはという強迫観念にかられるのは。脅されてる気になってくる。



 丸をつけられるのは2つに1つ。





 主人か騎士か。




 最初目にした時、なんだこれはと眉を寄せたが、そこは長いつきあいだ、すぐに見当はついた。
 また祭りをやらかすつもりでいるのだろう。
 アンケート内容からして全校生徒を主人と騎士に分け、期間中それぞれの役割を演じるというみたまんまのものである可能性は高い。
 何故なら特に捻りを加えずとも、彼女の感性で、それは十分楽しめるもののカテゴリーに入ることが予測されるからだ。
 彼女は王道で楽しめるものをあえて外すようなそんな性格のひねくれ方はしていない。
 盛り上がってこその祭りごと。
 そして王道が王道である所以。


 とはいえ内容に罠がないからといって――それ以前にこのままいくと為すすべもなく、事前に知らされもしていなかったイベントに強制参加という時点で罠に違いないが――他でも罠がないかといえば、それは話が別だ。
 楽しむためなら――自分がと注釈をつけておこう――労力を惜しまない女。
 それがアッシュフォード学園生徒会会長ミレイ・アッシュフォードなのだから。



「で、ルルーシュはどっち丸つける?」


 全校生徒にアンケートが行き渡っている時点で、ここまでお膳立てが整っているということは開催は既に彼女の中では決定事項。
 逃れることは不可能。
 ストライキはバレた時不利だ――「罰として女装!」と突きつけられる光景がまざまざと思い浮かんだ。騎士とセットなのだからその場合はドレスに違いない。自分で考えてぞっとした。似合わないのも悲惨だが似合うのもまた悲惨だ。


 それがわかっているのだろうリヴァルも、ルルーシュの興味ない発言は完璧にスルーだった。


「リヴァルは?」
「オレ? オレは……」


 悩みながらもどちらかというとと言うが、問題はここからだ。

 素直に書くべきか、否か。


「アンケートに答えるイコールできるってわけじゃなさそうだしな」

 何せ無記名だ。

 それどころか、生徒会役員に限りミレイが勝手に指定してくるかもしれない。
 とりあえずは数あわせのための調査と考えていいのだろうが、なんだか嫌な予感がしてしょうがないのは何ゆえか。


 とぼやいたところで結局のところどちらかに丸をつけなくてはならない現状に変わりはなく、裏が見えない時点で素直に書こうが書くまいが同じこと。
 無記名だし。
 それだけを心の頼りに、ルルーシュは渋々シャーペンをとりだした。
 無記名だし。
 何度も念仏のように唱えながら。




 願わくば頭の痛い事態にならんことを。
 

 願ってみてから思った。
 まず無理だ。




 もう一度リヴァルと顔を見合わせて、二人して同時にため息をつく。

 他の生徒会役員はどうだろうかシャーリーを見てみた。


「シャーリー、会長何か言ってたか?」
「え、何も聞いてないよ!」

 リヴァルが縋るように問えば、こちらを伺っていたらしいシャーリーはぶんぶん勢いよく首を振った。


 カレンは、猫が剥がれかかっているのにも気付かずに、睨みつけるように不自然なほど真剣にアンケート用紙を眺めていて、こちらには気付かない模様。
 まあ彼女には彼女の思いがあるのだろう。


 最後にスザクへと目をやった。
 なんの躊躇いもなく丸をつける様子に、まあそうだろうなと変に納得した自分が嫌だった。









 なんで会長もあえてこんな悪趣味なことをしようだなんて思いついてくれたのか。



 やる前から疲れ果てていた。
 重い。
 楽しい祭り――少なくともミレイにとっては。
 重苦しい。
 自分だけだとわかっているけれど。



 テーマが過去最悪だ。







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