基本的に。 数学なんて日常生活の一体何に役に立つというのだ。 それはきっと学生の少なくとも半数が抱く疑問であり、ちなみにこのあいだ国語の教師が言っていた言葉だ――教師としてありえない。数学と国語の教師は何故だか対立する方向にあるらしい。そこに割って入って英語はどちらも必要ですからね、理系も文系もとまとめようとしてどちらかもにらまれるのが英語の教師だ。 数学なんてやらなくても人生生きていけるじゃないか。 ようは算数ができればいいのだ。 足し算引き算掛け算割り算。 それすら出来れば買い物ができる。 問題ない。 そうだ。なんの問題があろうか。 サインコサインが何の役に立つというのだ。 わざわざわけのわからない呪文をとなえて――このあいだネットでみつけた呪文はサチココバヤシコバヤシサチコだった。意味がわからない。誰だそれ。加法定理だとか。 そうぼやいているその時すでに眠りの淵に立っていたのだろう。 次に何を考えていたかと問われれば、もう思い出すことができなかった。 「あ」 小さく声が漏れた。 とはいえそれはとても小さなものであったし、比べるまでもなく大きな教師の声が教室には響き渡っていたので、特に周りに聞こえてしまうということはなかった。 数字と記号――主に理解出来ない――とにらみ合っていたスザクはふと顔をあげたさき目に止まったものに一瞬動きをとめた。 視線の先では、たまに黒い滑らかな髪が揺れる。 珍しい。 軽い驚嘆は失礼かもしれないが、事実であれば責められないだろう。 ルルーシュ・ランペルージが起きていた。 その横顔はといえば最高潮につまらなそうなそれであったが。 とはいえこれ、あと何分もつだろうか。 確かに授業に興味がなければ、しかもわかりきった内容を繰り返されているだけだとすれば寝たくなる気持ちもわからなくもないが、しかし授業はしっかりとうけなければ教師にも失礼だとスザクは思うのだ。 だから授業に出れるときはできるだけ出席し、万が一にも居眠りなどしたことない。 そのことで幼馴染を責めたことは一度や二度ではないが、彼は疲れてるんだと言い放った。 一体何をそんなに疲れることがあるというのだろう。 部活に入っていなければ、生徒会での仕事は主にデスクワークだ。 それに比べてスザクは軍人である。 どちらがハードかといわれれば、間違いなくスザクに軍配があがるだろうに。 そのスザクが授業を真面目にうけ、ルルーシュが真面目にうけないとは何事か。 ああ、きっと。 きっと何か人に言えないようなことでもやっているのだろうが。 何せナナリーがしらないと言っていたので、碌なことじゃない。 珍しくも感心な姿に――あくまで当社費だが――それが続けばいいのだがとおせっかいにも思ってしまうが、まあ無理だろう。 むしろ今日起きている理由を追求したいのは何もスザクだけではないだろう。 ふと目を見開いているリヴァルとも目があった。 駄目すぎる。 起きているだけで驚かれているではないか。 あまり褒められたことでないとわかっていながら、ついつい授業も聞かず――聞いてもわからない――ルルーシュの動きを目で追ってしまう。 ふと、彼が横を見た。 そしてとまる。 何があったのだろうとスザクも視線を移動して。 ―――――――――――驚いた。 本当に。 純粋に。 「カレン・シュタットフェルト。気分でも悪いのか? 保健室に行くか?」 心配そうな数学教師の台詞は、ルルーシュにはむけられたことはない――人格か。あるいは、本当にバレてないのか。 「あ、あ、はい。いえ、大丈夫です」 気がついたように顔をあげた彼女は、スザクの位置からはよく見えないが、それでもなんとはなしにあまり顔色がよくないように思えた。 思もわず眉をよせたスザクの視界の端で、ルルーシュがふかぶかとため息をついていた。 意味は、…………わからない。 |