「で?」 穏やかな笑顔というものは。 その効力は。 人を和ませるだとか。 楽しい気分にさせるだとか。 つられて微笑みたくなるだとか。 そういう、プラスの方向に働くはずなのに。 どうしてだろう。 こんなことがおこっていいのだろうか。 何故? こんなにも凍えそうになるのだろう。 声が、低かった。 むしろ問いたい。 何故笑顔なのかと。 そりゃ迫力は増すけれどもっ! 笑顔できれる美人は怖い。 そういうことだ。 「言い訳ぐらいはききましょう。誰からいきますか?」 で? と問うた声の低さなどまるでなかったのかのように、その穏やかな顔にみあった穏やかな声で言われてしまえばもう逆らえようもなかった。 「誰から、いきますかって聞いてるんです」 はいじゃあ私から。 そうは言わなかったが、そうそうに諦めたというよりは、耐性がついているのかそうでなければ相当に鈍いのかどちらかだろう。 枢木スザクが本心から申し訳なさそうな顔でごめんねと言う。 「ごめんね、ルルーシュ」 それとも一番罪が軽いからか。 しかしながらその行動は間違っている。 一番罪が軽い人間が一番申し訳なさそうな顔をしてどうする。 友達として間違っている。 あとの人間を思いやれ。 風当たりがきつくなるだろう。 理不尽な八つ当たりをスザクにぶつけた。視線で。 声にはだせない。 そうともだしたら終わりだ、バジリスクに睨まれる。 メドゥーサだろうか。 どちらでもいい。 石になるんだ。 そしてなさけようしゃなく復活不可能にするためにかち割られるに違いない。 「君にばかり負担かけちゃって。僕も手伝いたいとは思ってるんだけど、行動に結びつかなきゃ意味がないよね。本当にごめん」 キレイゴトは必要だ。 だが。 今は不必要だ。 頼むからそれ以上言わないでくれ。 リヴァルは切に願った。 きっと他のメンバーも同じ気持ちのはずだと信じて。 「ああ、お前はいいんだ。だって仕事だろ。気にしてないよ。その気持ちだけでうれしいよ」 ああ、なんで。 なんで同じトーンで同じ表情で同じ穏やかな声だというのに空気がこんなにも違うのか。 いっきに花がまった。 問題はそこの一画だけだということだ。 花はここまでこない。 あっちは明るい光の世界。 こっちはどんぞこ闇の世界。 「お、俺もわるかったと思ってる、うん、ごめん、ルルーシュ」 「その言葉が行動に結びついたためしがないんだが?」 気持ちだけでうれしいとかいったのって誰だ。 「で、言い訳は?」 「あ、あの、バイト、が」 「ああそう、お前は友人よりもバイトをとったわけなんだな。人でさんざん稼いでおきながら。薄情な奴だ。ああ気にしないでくれ。傷ついてなどいないから。知っていたさもちろん、昔から、な?」 すいませんでした。 叫んで土下座したリヴァルを見下ろして、というか、見下してとでもいうか。 わざとらしくルルーシュはふかぶかとため息をついた。 「そうか。こなかった理由はわかったよ、リヴァル。で、頼んでおいたあれはできたのか?」 「あ、あれ?」 「はんこ押すだけで簡単だから頼むって言った、よなあ?」 「も、もちろんやってあるとも! ああそう、あ、あれは、鞄の中に」 「ほう? じゃあこれはなんだろうな?」 ひらひらと見せられた書類の束。 問うまでもない。 リヴァルの鞄の中から出てきてほしいものたちだ。 今からでも無理だろうか。 なんとか。 手品を使って。 ああ駄目だ。 半そでのマジシャンなんてそんな高度な術は持ってなかった。 「そ、そんなところにあったのかあ。勘違いだったよ」 「つまり出来上がってると?」 「す、すいません! 昨日は腹痛で!」 「バイトに行ったと言っていたな?」 石には、ならなかった。 かわりに氷像ができた。 「わ、私も悪かったと思ってるのよ?」 「期限がすぎるまで大量の書類をほったらかし、それを我かんせずと俺に押し付けて、あげくの果てには重要書類、一枚なくしましたね。悪いと思わず何を思うっていうんです」 今日のルルーシュは生徒会最高権力者であるミレイにも容赦ない。 まあ、それだけのことをしたっていうことだが。 「ごめんなさい」 「謝らなくて結構です。それで、書類はどこにやったのか思い出せましたか?」 「あ、アーサーが」 「どこかに持っていったと?」 確かあの猫には前科があったはずだ。 それも被害者はルルーシュ。 信じられないわけでない。 が、うっすらと笑ったルルーシュにそう続ける勇気はさすがになかったらしい。 「食べちゃった」 「…………解剖したら出てきますかね」 「る、ルルちゃんそれはだめ!」 同じく一切の事務処理を手伝わなかった――彼女は知らなかっただけだが――ことに罪悪感を覚え、ルルーシュの顔をまともに見れずにしたを向いて黙っていたシャーリーがさすがに声をあげた。 とはいえ、まさかそんなことを本当にするわけがないが。 「私も、ごめんなさい! ちゃんと生徒会に顔をだしてから部活にいけばよかったんだよね」 しかし確か彼女は顧問の教師から話があると言われて、生徒会によらずに部活に赴いたはずだ。 知っていたとしても、どちらかを切り捨てなければならないとすれば、責めるに責められない。 つまりルルーシュの怒りの矛先は主にリヴァルとミレイにむかっているのだが、雰囲気にのまれてか、全員で怒られているような空気になってしまっている。 その中、カレンも申し訳なさそうな顔をする。 「ごめんなさい。私、その日休んでいて。言い訳にならないかもしれないけど」 いやいやいやいや充分立派な言い訳だ。 「それは仕方ないことだろう?」 ルルーシュも寛容だ――まあ当たり前だろうが。 ちなみにニーナとナナリーは今はいない。 こうなることを予定していたのだろう、ルルーシュが使いにやってしまった。 だからリヴァルに出来ることはといえば彼女らが帰ってくるのをただひたすら待つしかないのだ。 妹至上主義のルルーシュ・ランペルージは妹の前で怒気を振り向かないとわかっていれば、それまで、もちこたえれば、なんとか。 そうなんとか。 なってくれ。 涙目になってきたリヴァルの横で、ミレイが、神の怒りをなだめるには太古の昔から生贄って相場が決まっているのよ、リヴァル、ごめんねとなんとも無責任なことを考えているだなんて。 リヴァルは知らない。 とても幸せなことだ。 知らぬが仏。 神と仏はどちらが強いか。 |