先生


「ルルーシュ・ランペルージ。リヴァル・カルデモンド」


 今日も今日とて賭けチェスに興じていた彼らを、しかし午後からは授業は受けようと殊勝な態度――とは本人たちだけの言い分だ――で戻ってきたところを待ち構えていたのは、生徒たちからあまりいい評判をきかない歴史の教師だった。
 まず授業が眠い――よく忘れられる事実だが、基本的に授業はどれも眠い。
 寝てるのを怒る前に授業をどうにかしろとの言い分は彼の授業をとれば30分もせずに心の中に渦巻くだろう。
 神経質なところも不評。
 生徒を見下してる感じがするとの意見もある。
 何より嫌がらせのような――というか嫌がらせである――課題の出し方が生徒の扱い方を知らないとみえる。
 授業中の態度が少しでも乱れれば即課題。
 遅刻。
 即課題。
 予習不足。
 課題。
 宿題忘れ。
 課題。
 とにもかくにも課題を出せばいいってものでもあるまいに。
 こうやって生徒の不満はたまっていく。
 そしてなにより、授業中につるしあげるような真似も不愉快だった。


 待ち構えていたのがそんな教師だったといえば、彼ら二人の末路は想像するまでもない。

 呼び出しをくらう二人をクラスメイトは同情的な眼差しでみつめた――主にルルーシュをだったが。
 当然の如く同情されたかったのはむしろリヴァルのほうだ。
 ルルーシュは平然としていた。
 いや、確かに嫌そうにはしていたが。


 シャーリーを見ると彼女は怒っているよで、だがそれもルルーシュを案じてのことだろう。
 何故だろう。
 リヴァルは唐突に世界を儚みたくなった。

 人生って不公平だ。




 不公平だ。










 不公平だ。










 不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ不公平だ!



 なんだってこんなに不公平なんだ!?












 彼は天に問うた。






 神は無常にも言いたもうた。










「人徳ってやつかな」
「どこが!?」

 耳元での叫び声に神、もとい不公平の優遇されているほうであるルルーシュ・ランペルージがうっとうしげに顔をしかめた。

 その手にはリヴァルにはよくわからない分厚い本が開かれている。
 対するリヴァルの目の前に鎮座するのは埋まらないプリントだ。
 右手にペンをもち。
 ルルーシュの右手は次のページをめくる。




 呼び出しをくらった。
 それはいいとしよう。
 それでおとなしく反省するようなら最初からそんなことはしない。
 けれども呼び出しを完全に無視するわけにもいかず。
 すごすごと出頭した二人――というかリヴァル。ルルーシュはどこ吹く風だった――に、教師は長々と説教をはじめた。

 そこで欠伸なんぞするからプリントの数が増えるのだが。
 だが仕方がないではないか。
 聞いているだけでも苦痛に思うようなつまらない、次の言葉が予測できてしまうようなひねりのない言葉の羅列。
 どうして飽きないでいられよう。
 たとえふりだけだったとしても――どう考えても本当に真剣に聞いていたとは思えない――それができるルルーシュを今回ばかりは本当に尊敬した。いろんな意味で。

 けれど本当に尊敬したのは、そのお得意の弁舌でもって今回の課題を免除されてしまったルルーシュだ。
 真剣に聞いているふりをして、従順に頷いてみたりなどして、さらに質問があるだの言いだして。
 その内容はといえば……………………高度すぎてリヴァルには理解できなかった。
 確かブリタニア帝国発展における第33代皇帝の…………どうたらことたらがどうしただとか、リヴァルが覚えてるはずもない。
 だいたい33代って誰だ。
 なんで条件反射ででてくるんだ。
 マイナーすぎてわかんねー。

 そのまま質問攻めへともっていったルルーシュは無常にもリヴァルに課題をだしていくのだけは忘れなかった教師をそれ以上は刺激しなかった。
 ただ自分の分だけ課題を免れたのだ。
 悪友として許せないではないか。


 そういうとぬけぬけと笑った。


「だってリヴァルはもうちょっと歴史の成績あげたいんだろ? 俺はどうでもいいし。勉強しろよ?」



 そんな彼に教師攻略法を聞く意味はない。





 どうせ真似できないのだから。

 せいぜい俺にもできる何かない?
 と聞くぐらいだ。
 かえってくる答えはわかってる。
 授業にでろ、だ。
 意味がない。