悲しげな台詞で15題


01/『どうして気付いてくれなかったんだ』
02/『初めから信じてなんかないでしょう』
03/『あんまり君が好きすぎて、だんだん憎くなってきた』
04/『この世界では息も出来ない』
05/『もういい、朝が来るまで寝てしまおう』<
06/『あなたの為なのに、どうしてわかってくれないの』
07/『俺の為に、死んでくんない?』
08/『思えば、良い人生だった』
09/『貴様の価値観で世界をくくるな』
10/『君が泣くのは僕のせいか』
11/『もっともっと幸せになりたい。そのためだったら、死んだって良いわ』
12/『置いていってよ、もう無理だから』
13/『鬼は泣かないから』
14/『もう、夢を語る資格なんてないし』
15/『笑って、笑って?こっち向いてよ』


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01/『どうして気付いてくれなかったんだ』




「向こう向いてるときにするからだろ」
「スーザークー」
「すれ違うな、お前たちも。おもしろいぐらいに」
「ちょっとはこっち見ろよあいつ」
「で、お前は一人屋上で待ちぼうけたわけか? かわいそうにな。ああ本当に」
「うるさい」
「心底同情する」




























02/『初めから信じてなんかないでしょう』


「好きだよルルーシュ」
「知ってるよ。もう何度も聞いた」

 うそつき。

 ただの一度も。
 信じたことなどないくせに。


 呆れた顔でうそついて。

 笑顔で信じる僕は可哀想。
  

























03/『あんまり君が好きすぎて、だんだん憎くなってきた』

 甘い君の名前を呼ぶ。


「ねえ、ルルーシュ」
「…………」
「ルルーシュ?」
「……」
「ルル?」
「………………」
「ルルゥ?」
「……」

 舌の上で転がすだけで、それはとろけるように。


「ねえルルーシュ、殺してもいいかな?」


 狂気の下、こたえはない。

 首を赤く指の形がまいて、何も見ない君がいた。
 

























04/『この世界では息も出来ない』

「……っ、……ぅん」

「ぁ…………ふ」

「……や……スザ……」


「く、やめろって言ってるだろ」

 窒息させる気かお前は。
 乱れた息はしばらく戻らない。


























05/『もういい、朝が来るまで寝てしまおう』

 ああ、参った。
 どうしよう。

 疲れきって身体と一緒に意識までなげだしてしまった恋人の寝顔は、意志の強さをうかがわせる紫水晶の瞳が閉じられているせいか驚くほど幼い印象を受ける。
 可愛いなと思って笑う。
 この寝顔は僕だけのものだ。

 ああでもどうしよう。

 行為を終えると同時に夢の国の扉を叩いてしまったお姫さまは、僕をおいて夢の国へ行ってしまったというのに、現実世界で僕の手を放してくれない。
 もっとも原因の大半は僕にあるのだけれど。

 無意識のうちにどこにもいかないでと縋る指を外すのは難しいことじゃない。
 けれど不可能。
 愛おしさばかりがつのるその様子に、頬が緩むのはどうしようもない。

 ただし本当に参った。

 明日は朝から軍部にいかなければならないのに。
 これじゃあ帰れない。
 どうしてくれよう。


























06/『あなたの為なのに、どうしてわかってくれないの』

「スザク、外せ」

 しゃらんと手首を動かせば音が鳴った。
 硬い金属の感触は、すでに体温を奪って冷たくはない。

「ダメ。ダメだよルルーシュ。だって外したら行っちゃうだろ」
「監禁は犯罪だぞ?」
「うん。ごめんね? でもダメなんだ。ここにいて」
「スザク!」
「ここにいて。どこにもいかないで。じゃないと、きっと悪いことがおこるんだ」
「悪い事ってなんだよ」
「わからないけど。でも、悪い事。怖いことだ。どこにもいかないでよ、ルルーシュ。お願いだ」




























07/『俺の為に、死んでくんない?』








 嫌だよ、断る。


























08/『思えば、良い人生だった』

 時には哀しいことだってあったけど。
 辛いことも腐るほど。

 生きていないとつきつけられて。
 自分が何も持たぬことを知り。

 母を失い。
 妹の幸せを見失い。
 自分をどこかになくした。


 けれど。


「いい人生だったよ」

 それは確かに。

 悔いはたくさん残るけど。
 遣り残したことだって。

 でも。


 君に会えた。



 そしてなにより。


「お前の腕の中で逝けるなんて理想的じゃないか」


 他でもない君に討たれる幸福。
 これで絶対お前は忘れない。
 呪縛は死して尚。
 ああすばらしき人生。
























09/『貴様の価値観で世界をくくるな』

「このすばらしき世界かな、と」
「ぶち壊してやりたいよ」
「あは〜。頑張ってください?」


























10/『君が泣くのは僕のせいか』

 己惚れるなよ。
 俺が泣くのはナナリーのためだけだ。


「え〜。僕のためには?」

 そんな涙がもったいない。


「ひどいな。死んでも泣いてくれないのかい?」

 笑ってやるよ。
 一番いい笑顔で。


「成仏できないじゃないか」

 願ったり叶ったりじゃないか。
 泣いて昇華なんてさせない。
 思いは抱いて生きてやる。



「ナナリーは?」

 一緒に死ぬから問題ない。



「愛に差がみられるんだけど」

 同じでいいのか?


「複雑な選択肢をつくらないで」


























11/『もっともっと幸せになりたい。そのためだったら、死んだって良いわ』

 もしも死後の世界のほうが幸せだというのなら。


 一緒に地獄におちてやってもいい。

 天国よりも地獄に行くほうがずっと簡単だろうから。

 二人で手をつないで許されぬ罪を犯そうじゃないか。


























12/『置いていってよ、もう無理だから』

 この道は僕には厳しすぎる。

 うるさいな。迂回したいって言ってるんだからさせろよ。

 急がば回れって言うだろう。迂回したほうが早いぞきっと。

 なんだよそれ。要はたどり着けばいいんだ。じゃあ君はそっち行くといい。僕は迂回するから。

 無理。先に行って待っててくれ。まあ僕のほうが早いと思うけど。





 体力ないなあ。ほんっとに。

 遠回りしたいの?

 そうかな。でも迂回したらわざわざこんなとこまで来た意味ないと思うんだけど。人生の道は王道にあり。

 え〜。一緒にいかないの?


























13/『鬼は泣かないから』

 変わりに僕が泣くんだ。



 誰が鬼だって?



 

 




















14/『もう、夢を語る資格なんてないし』

 そもそも夢なんてもうないし。

 叶ってしまえばなんて空虚なこの世界。


 暖かい日差しの中で笑ってやった。



 優しい世界。
 望んだ世界。


 なのになんで君がいない。


























15/『笑って、笑って?こっち向いてよ』

低気圧がいる。
あるでも発生したでもなく、いる。

生徒会室のドアを開けてリヴァルは瞬時に状況をそう分析した。

しかも刺激一つ加えただけで嵐に変わるのだろう。
熱帯性低気圧をエリア11では台風というらしい。
不謹慎かもしれないが大した被害を受けたことのない学生にとっては年に一、二度休校になってくれて誠によろこばしい。
願わくば今日の生徒会も中止になってはくれないだろうか。
ピンポイント台風によって。
低気圧は刺激を与えたら台風になるのだったら触らぬ神に祟りなし方式でいけばいいのではないかと思うかもしれないが、それは大きな間違いだ。
何故ならほっとけばほっといたでブリザードになるからだ。

やっぱりサボろう。

部屋の真ん中でボールペンを無意味にカチカチならしてる低気圧の塊を見やってリヴァルは決意した。


しかし世の中そううまくはいかないものだ。

「どうしたの? 」

入り口できびすを返そうとしたリヴァルに後ろから待ったの声がかかった――いや、実際はそんな意図はないのだろうが。
今日も朝から軍に行ってたらしいスザクは今きたらしい。
なんというタイミングのよさだろう。
あと少しでもずれていれば逃げられたのに。
スザクの声に反応して低気圧ことルルーシュが顔をあげた。


「ルルーシュ。おはよう」

もう放課後だとかそんな突っ込みはどうでもいい。
スザクが満面の笑みで言ったその瞬間、リヴァルは未来を予知した。


吹雪く。
これは確実に吹雪く。


機嫌の悪い人間とご機嫌な人間を一緒にしたら駄目なのだ。
理由もなくそこにいるだけで神経を逆撫でするから。
しかも相手は空気を全く読まない人間枢木スザクだ。
恐ろしい。
警報が発令される。
家から出るな。


「…………ああ」

不穏な空気を纏ってはいても一応自制心働いているようで周りにあたりちらす気はないようだったが、それでも声は常より低かった。



「うわ、それ全部書類? すごいね〜」

素直な感嘆も起爆スイッチだと何故わからない。
文字通り山と詰まれた会長が溜めたのであろう書類にルルーシュ埋もれるように取り囲まれていた。
これはルルーシュでなくても不機嫌になる。
リヴァルもごめんだ。
それを何故か1人で処理しているらしいルルーシュの機嫌などおしてはかるまでもない。


 仕方がない。
 ルルーシュにはいろいろと借りもあるし、リヴァルも生徒会の一員には違いない。
 ルルーシュよりも役にたたないかもしれないが。
 猫の手も借りたい状態なら、猫よりは役に立つ自信があるし、同じく苦しむものがいたほうがルルーシュの機嫌も少しは回復するだろう。
 そう思って、ようやっと生徒会室に足を踏み入れる覚悟を決めたリヴァルをよそにスザクはといえばつつつとルルーシュのほうによっていくと覗き込むような体勢をとっていた。


「眉間に皺よってるよ」
「……るさい」

 悪態をつくルルーシュの声にかぶるように軽い音がした。
 リヴァルからみてスザクの頭がルルーシュの顔を完全に隠してしまって。


 しばし空気が止まった。
 たぶん、スザクの周り以外――スザク一人でにこにこと楽しそうにしている。
 ルルーシュのブリザード以上の破壊力のそれにリヴァルの機能はなかなか回復しない。


「おまっ、おまえ……おま、なに」

 ルルーシュの混乱も激しいが。

「何って、ほっぺたにちゅー?」

 可愛らしく首を傾げられてても、それが男子高生だと思えばなんにも可愛くない。


「何やってるんだお前はっ!」
「え、だって昔絵本で、笑わないお姫様を笑わせるために男の子がお姫様にちゅうするのがあったような覚えがあって」

 皺がくせになったら嫌だなと思って、と。
 だって笑ってたほうが可愛いよ、と。


 お前何言ってんだよ!?

 リヴァルの叫び声がこだました。