昼下がり


 昼間は学生。
 夜は黒の騎士団。
 ルルーシュ・ランペルージの毎日は忙しい。

 もっとも自分で選んだ道だ。
 何も言うことはない。
 それだけの覚悟を持って望んだのだ。

 どちらも捨てることはできないから。
 そう、少なくとも今はまだ。

 だから両立をと考えるのはもしかしたら欲張りなことなのかもしれないけれど。
 少しでも長く、ナナリーの傍にいたくて。
 少しでも長く、スザクと笑っていたくて。
 少しでも、友人と、一緒の時間を過ごしたくて。
 そんな普通の幸せを望んで。

 覚悟があって、すると決めた。
 出来るはずだ。
 そのための頭脳だ。
 計画をたてた。
 大丈夫、やれる。

 しかしながらやれると思うのと実際にやるのとではいつだって話が違うものなのだ。
 でなければ人間は今ごろ生身で空をも飛んでいるはず。
 頭で考えるのは制限がなくても、肉体には限界が存在するのだから。

 ごちゃごちゃと理屈をこねてはみたが、何が言いたいかといえばなんのことはない、ルルーシュは只今絶賛寝不足だった。
 もともと体力にはそれほど自信がない。
 いや、普通だと思っているのだが、横にいるのがいるのなせいでどうしても劣っているように感じてしまうのは仕方のないことだ。
 なにせ、比べるのが比べるのだ。
 あの体力バカ。
 脱線したが、一般的な体力の持ち主のルルーシュは、気力が一般以上でも肉体のほうは確実に限界を訴えかけてきていた。

 穏やかな昼下がり。
 お昼を食べての5時間目。
 窓側の席。
 今日は晴れ。
 日の光がいい具合に入ってきて、ぽかぽかとした陽気はもうさあ寝てくださいといわんばかりだ。

 普段からリヴァルには、授業を睡眠時間だと勘違いしているなどと指摘を受けたりしているが。
 それでも一応気を使って、ばれないようにうまく寝る術を身につけてきた。
 しかし、だ。
 今日の睡魔はいつもの比ではない。
 授業が対して刺激のない歴史だということもあるだろう。
 そんなもの、教科書などなくても教師より詳しく語ってやれる。


 ああダメだ。

 もういい。


 寝てしまおう。


















 おやすみ。































「うわ、ルルーシュ爆睡」

 リヴァルが呆れたように言うのにつられてスザクがルルーシュを見やるとなるほど、爆睡の二文字は否定しようがない。 
 スザクの席はルルーシュよりも前にあるので授業中に気付きようもなかったが。
 よく注意されなかったものだといっそ感心してしまう。

 いつもならば肘を突いてノートに目を落としているふりをしながら器用に寝てみせる彼は今日、つっぷして寝るなどと珍しい姿を披露してくださっていた。
 こんなに無防備な態度はなかなか公共の場でお目にかかれるものではない。
 貴重だと携帯をとりだす生徒を視界の端におさめれば、さすがにそれはあまりいい気分はしなかったが。

「疲れてるのかな。っていうか何やってるんだろう、ルルーシュ。最近学校も休みがちで、来たと思ったら授業なんて受ける気なくて」
「女、とか?」

 下世話に笑うリヴァルが不愉快だ。
 いや、彼が不愉快なのではなく、その推測がだ。
 当たっているにしろ当たっていないにしろ、考えたくもない。
 当たっていないのなら失礼だし、当たっているのなら…………。
 どうこう言える立場じゃないことが腹立たしい。

 彼に彼女。
 しかも行動から察するに学外に。
 自分の知らない女と会う彼。
 笑いあって、触れ合って、抱き合って。 
 弱いところも見せれる人。

 腹の奥深く、くすぶる破壊衝動を気付いた瞬間に押さえ込んだ。


「危ないことしてなきゃいいんだけど」
「ルルーシュの相手だから絶対美人だな。年上のオネエサマ系と見た」

 話がいまいちかみ合っていない。

「こんなところで寝てたら身体痛くなるよね。起こしてクラブハウスに帰したほうがいいのかな」

 随分と気持ちよさそうに眠っているけれど。
 こんな無防備な姿を大衆にさらしているのは、ルルーシュがよくてもスザクが嫌だった。
 理由は、と深く追求されては困るのだけれど。
 自分でも答えようがない。
 ただ、なんとなくだ。
 気を許している数少ない人間が自分であることをはっきりさせておきたい、お互いに自覚をもっておきたい自惚れたいという、幼い独占欲なのかもしれない。
 そう思うことにした。

「え〜。寝起きのルルーシュって絶対機嫌悪そーだって。ほっといたほうがいいって」
「うん、でもどうせ寝るんだったらベッドのほうがゆっくり寝れると思うから」
「甲斐甲斐しいなあ。なんていうか、嫁?」

 普通だったら冷やかされていると思い、赤くなったり否定したりするのが一般的な男子校生だと思われる場面だが、スザクは至極真面目に頷いた。

「ルルーシュってなんていうか世話やきたくならない?」

 ついうっかり真面目だったものだからリヴァルが机に沈んだ。
 ごんっといい音がした。

「なんか、もう、好きにしてください」









「ルルーシュ、ねえ、ルルーシュ、起きて、ほら。帰ろう」
「ん…………。スザ……ク?」
「結局学校来ても一日中寝てるってそれってどうなの」
「大丈夫。成績は落とさないから」
「そうじゃなくて。ほんとに君は一体なんのために学校にきてるんだよ」
「学校にこないとお前に会えないだろ。授業中はしゃべれないから寝てても問題はない」
「あのね。それならちゃんと毎日おいでよ」






「砂吐くー砂ー。誰かあ、バケツーっ!」